第7話 ピースの日

今日の相手は行きつけの居酒屋で出会ったOLの女の子。軽ーくナンパしたら成功した。

「えっと、名前なんて言うの?」

 「石川みのりです」

名前はみのりちゃんという。

童顔で可愛らしい顔だ。


ふぅ、

さて、今頃俺たちはセックスをしていたはずだが、俺はタバコを吸っている。

「すいません、椎名さん、やっぱりちょっと

 怖くて…」

みのりちゃんがベランダに顔をだしてそう言った。

みのりちゃんはそういうことはまだ未経験だったらしく、直前でやはり止めようということになった。

「謝らなくて大丈夫だよ、最初は怖いもんだ

 し、そういうことは無理してしなくていい

 よ」

まあヤリたかったのが本音だが。

「みのりちゃんなんのお仕事してるの?」

煙草の火を消してちょっとした雑談に話を逸らした。本音が漏れたら大変だし。

「えっと、私は普通の企業で人事の仕事をし

 てます。」

 「あの居酒屋来てたの初めてだよね?

  俺よく行くけど初めて見たから」

「はい、初めてです。友達に誘われてあの居酒

 屋に行ったんですけど、ドタキャンされちゃ

 いました」

 「まあ、そのおかげで出会えたわけだし、

  一人で飲んでてちょっとかわいそうで

  かわいかったよ」

「椎名さんの趣味だいぶ変わってますね」

ん、なんかこの子と喋るの結構楽しいな、

なんとなく波長みたいなものが合う気がする

やばいわ、俺この子好きになりそう。

「俺さ、歳取ったら北欧とかに引っ越したい

 んだよね、お金は十分あるし、北欧でゆっ

 たりほっこり暮らしたいんだよ」

 「わかります、私フィンランドに住んでみた

  です!」

「まじ?俺も引っ越すならフィンランドだと

 思ってたんだよ!」

将来の計画、完全に一致してる。

「俺犬より猫派なんだよね、散歩とかめんど

 くなっちゃうし、猫の方が賢いし」

 「ツンデレなのがかわいいんですよね!」

「わかるめっちゃわかる!」

犬派猫派論争、一致。

「私、深夜番組大好きなんです!

 芸能人の人がひたすらおしゃべりしてる感

 じのやつが好きなんです!」

 「日曜日12時のさ…」

「あ!わかりますよ!私も見てます!」

ああ、だめだ、俺もうこの子好きだ。

「あの、椎名さん、連絡先交換しません?」

 「へ?」

「あ、いや、なんか、今日私が原因で出来なか

 ったじゃないですか、だから、その、また

 誘ってもらいたくって、あの、だめです

 か?」

これは初めてのパターンだ。

こういう人から連絡先を聞かれるのは珍しくない。でもこれ、脈アリでしょ。

うわぁ、やばい、

俺、この子のこと好きだわ

「え、ああ、いいよもちろん」

そうして俺たちは連絡先を交換した。


「椎名さん、今日すっごく楽しかったで

 す!またお話ししましょ」

 「うん、また連絡するわ」

いやぁ、マジでいい日だった。セックスしてないのにこんなにいい日久しぶりだった。

「私、椎名さんのこと好きになっちゃったか

 もしれないです。次会うの楽しみにしてま

 す!」

あーかわいい、俺も好き、そう言いかけた時、少し冷静になった。

俺、この子のこと幸せにできんのかな。

俺、今まで酒と煙草とセックスばっかりの生活だったし。

俺は自分のことで精一杯なのにもう一人分の人生を背負ったりして大丈夫なのかな。

やっぱり自信ないかも。


ふぅ〜

大きなため息を一つ。

「なあ、みのりちゃん、やっぱり俺のこと忘

 れた方がいいよ。多分俺はみのりちゃんを

 幸せにできないし、むしろみのりちゃんを

 傷つけちゃうと思うんだわ。

 だからさ、申し訳ないんだけど、俺のことは

 忘れてくんね?」

あーあ、俺何言ってんだろ。

ほら見ろ、みのりちゃんないてんじゃん。

俺ってさいてー、

みのりちゃんが近づいてくる。

痛、頬が痛くて熱い。

俺ビンタされたのか、そりゃそうか。

普通に最低なことしたもんな俺。

みのりちゃんの姿が遠く離れていく。

暗闇に消えていく。


ピース買いに行こう、缶のやつ買おう。

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