第4話 ハイライトを目指して

今日の相手はいない。

正確にはまだ来ていない。

さっき遅れるという連絡がきた。

なんでも、仕事が立て込んでいるらしい。


ふぅ、

口に馴染んだセブンスターの香り。

働く人達を見下ろしながらだと、また格別だ。

今日の相手は姫野さん、今回で4〜5回目のセックスだ。

そういえば、俺は姫野さんに煙草教えてもらったんだっけ。

あの時姫野さん何吸ってたっけ、マイルドセブン?

いや、今はメビウスって呼ぶのか。

キャビンの甘いやつも吸っていた気がする。

キャスター・プレミアム・バニラ・5・ボックスを吸ってたのは、えーっと、

真美ちゃんか、あれ、真依ちゃんだっけ。

ピース吸うのは誰だっけ、ああもう忘れたわ。

今まで色んな人とセックスして煙草も吸ってきたけどそのせいで細かいところまで記憶が残っていない。

酒を飲みすぎて誰とヤったかすら曖昧な時だってあるくらいだし。

「依存するものがないとダメなんだなぁ、俺も」

煙草の煙といっしょにため息を吐いた。

ここらへんの夜空は美しいとは思えないな。

明るすぎだし、空気も汚い、人も汚い。

「ごめ〜ん、おまたせ〜」

扉を蹴り開けて姫野さんが入ってきた。

両手にパンパンになったビニール袋を持ち、スーツはだいぶはだけている。

「あら、椎名君どうした?泣いてるの?」

目尻を拭って確かめると確かに俺は泣いていた。なんでだろう。

「なによ、なによ、私がいなくてそんなに寂しかった?

 ほら、お酒といいつまみと煙草買ってきたからお喋りしよ」

そう言って姫野さんは煙草の箱を投げてきた。

「それ懐かしいっしょ」

銘柄はハイライトだった。

「懐かしいなあ、椎名君がさ、こっちに上京したての時でさ、

 ハイライトが最も明るい部分って意味だって言ったら、これを吸うって言った

 んだよ。あの時はめっちゃ咽せてたけどね」

ハイライトの箱はあの時とほぼ変わっていない。

俺、変わっちゃったんだな。

今の俺からしたらハイライトなんてものは眩しすぎるのかもしれない。

「どうしたのボーっとして突っ立って。早くこないとおつまみ全部食べちゃう

 よ」

まあいいや、昔の自分も好きだったけど今の自分も好きだし。

どんなものだって変化するんだから仕方ない。

俺は今したい事をして今を大事に生きたい。

「姫野さん、今日生でしたいっす」

姫野さんは缶ビールを飲みながらオーケーサインをした。

今夜は長くなりそうだ。

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