第二話
東京、丸の内。コンクリートジャングルの一角の、一際高いビル。『VOLT』の本拠地。
その最高層、広く無機質なオフィス。ガラス張りの大きな窓を背にして置かれたデスクで、
「まだ掴めないのか、シードの足取りは」
「はい。被害状況は報告されてるんですけど、シードに食われた本人の回復に時間がかかってて……話を聞くにも聞けないらしいっすね」
「成程……道のりは長いな」
コーヒーカップに口をつけると、上達部は溜息をつく。上司の深刻そうな表情に、
「組織の尻尾が掴めないんじゃ、やられたい放題っすね」
「今の我々の戦力では、シードを倒すので精一杯だ。シードに乗っ取られた人々こそ、根本の解決に繋がるんだがな……」
広いオフィスに、しばらくの沈黙が流れた。守は、頭の後ろで黒い癖っ毛を掻きながら訪ねた。
「……やっぱり、駄目なんすか? シードのこと、市民に公表するのって」
「勿論以前も考えたさ。しかし、この事情はあまりに突飛すぎる」
「そりゃ、人間の想像力が化け物になる、なんて、俄には信じがたいっすけど……」
言葉を濁した部下。上達部は続ける。
「それに、人間の想像力は、我々自身が思っている以上に危険だ。我々の手数が不十分な今、下手に手を出せば、奴らを刺激しかねない」
息を
「ウェポンと適合者が一定数揃えば、我々も次の段階に進めるんだがな……エンジニアたちの進捗はどうだ?」
「四苦八苦してますよ。それに、どれだけいいウェポンが作れても、それを使う人が見つからなくちゃ宝の持ち腐れっすね」
苦笑いする守につられて、上達部も苦笑する。
「更生施設の人間たちには負荷が大きいが、一般市民を巻き込むというのもリスクが大きい」
「そりゃ、重度の中二病なんて国中探せばわんさかいますけど……シードに食われて暴走するのが顛末っすもんね」
「自身で気づけるものでもないからな。そうだ、隊員への適合手術の件はどうなったんだ? エンジニア達が別途で進めていたはずだが」
「百人の隊員が実験に参加して、そのうち適合者となったのはたった一人だけ……らしいっす。幸い、暴走することはなかったそうで」
「成程……今の実質的戦力は、特殊部隊と田中くんだけか」
「本人の前で田中なんて呼ばないでくださいね、あいつ田中って呼ばれるとキレますよ」
「はは、そうだったな」
すると、守はそういえば、と手を合わせる。
「上達部さんの娘さん、ウェポンを一人で作ってるんですよね? 地元の高校通いながら」
娘、という言葉に、上達部は手を止めた。
「娘……
突然肩を下ろす上司に、守は恐る恐る尋ねる。
「……また、なんかあったんすか?」
「囲……最近口も聞いてくれなくなって……」
先程までの威厳あるオーラから一転、情けない声を上げる上司を、守は必死にフォローした。
「あ、いやいやその⁉ 上達部さんは悪くないっすよ‼ ほら、娘さんも思春期真っ只中だから……」
「いや、わかってるんだ。囲には囲にコミュニティがある。若いうちに色々経験するのは大事なんだ。だから俺が介入しちゃいけないって……でも俺、どうしたって心配で……」
「そりゃ心配しますよ一人娘なんですから! いやー、囲ちゃん凄いじゃないですかー! あんなに若いのに一人でウェポン開発なんて、ねえ!」
未だ若い部下の必死のお膳立てに自ら情けなさを感じつつ、上達部は深い溜息をついた。
「……ウェポンはともかく、いま我々が急ぐべきは、シードの足取りを掴むことと、適合者を探すことだ」
「適合者、見つかりますかねぇ」
「なんとしてでも見つけるんだ。シードの脅威が、これ以上人々の生活を脅かす前に」
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