ウォーターインシール

あの頃、シール手帳が流行っていた。


いつも遊ぶ時は必ず持っていく。


シールを見せあったり、交換したりするのだ。


ウォーターインのシールは特に人気があり、彼女達を魅了した。



『ウォーターインシール』

田舎者には買うのが大変だった。


中々売っていないのだから。

母に言っても、解決はしなかった。


たまに行くショッピングモールで買うことが出来た。


これで安心だ。


みんなと同じだ。






本当に欲しかったのかはわからない。






みんなと同じものを好きと言い、

みんなと同じことをして、楽しいと言う。





みんなと違うことをすれば、除け者になる。

痛めつけられてしまう。








シール手帳は


常に更新する。


ついて行くので精一杯だった。









それは起きた。


私はこんな性格だから、いじられたり、からかわれたりするのはもう慣れていた。


彼女たちが私をいじったりするのは、決まって大人がいない時だ。

その日も大人はいなかった。




彼女たちは、私がやっとの思いで手に入れたシールを次々と奪っていった。


最初からそれが狙いだったのか。




私は、その時、はじめて、

抵抗した。



おかしなことだと脳が強く反応して、

身体は動いた。




彼女たちは笑いながら外へ向かい、

私は追いかけた。



腕を伸ばした時、

バタンッと玄関の引き戸が閉まった。



指が挟まった。



指の締めつけは次第に強くなり、

痛みは酷く私を苦しめた。


彼女たちは引き戸をしめ押さえることをやめなかった。


私は痛みに耐えきれず、シールを諦めた。


引き戸の鍵が閉められた。

内側から開けることはできなかった。




私は、誰もいない部屋で1人になった。



外から聞こえる声は私に何かを言っていた。


声は放った。

私の『人生』は可笑しいものだと。


声は

私の『人生』を侮辱した。





痛かった。全部。







その日のことを、私は宿題の日記に書き留めた。


『みんなでシール交換をした。楽しかった。』


惨めだ。

でも、宿題だから、書かなければいけないのだ。『良い』文章を。




あの日の痛みは誰も知らない。

知らなくていい。


面倒なものだから。負の感情は。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ウォーターインシール モナカ ハル @monakamonaka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ