ばけもの子供の物語 ガラス

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 そのばけもの子供の体はガラスでできていた。


 そんなばけものは、ガラスを生み出す事ができる力を持っている。


 ガラスならどんなものでも生み出せた。


 人間が長い時間苦労してつくるようなガラスでも、一瞬で生み出す事ができた。


 だから、人間達はそのばけものの子供に、ガラスを生み出させていた。





 手の中に、綺麗な光が生まれた。


 そう思ったらことり。


 小さなガラスの破片が落ちた。


 ずっと昔は、これよりサイズが大きかった。


 けれど、今はその三分の一位のサイズにしかならない。





 そのばけものはずっとガラスを作り続けてきた。


 どれくらい前か、思い出せないほどずっと前から。





 ばけものは悩む。


 あとどれだけ頑張ればいいんだろう。


 あとどれだけ頑張ればみんなに認めてもらえるんだろう。


 あとどれだけしたら、「ここにいていいよ」と言ってくれるのだろう。


 そのばけものの子供は聡明だった。


 自分が普通の人間とは違う事を分かっていた。


 だから、人間に利益をもたらす特別な存在でないと、その場所にいられないと考えていた。


 功績を積もう。


 そう思って、ばけものの子供は大人しく、ガラスの工房へ入った。





 分からないよ。


 分からないから、まだ頑張るしかないよ。


 どうすれば「ずっとここにいていいよ」って言ってくれるんだろう。


 疲れてるし、もう休みたいけど、ここにい続けるためには頑張るしかない。


 もうちょっとで壊れちゃうかもしれないけれど、頑張らなかったら今すぐここにはいられなくなっちゃうから。


 もうてょっとで壊れるって分かってても、頑張るしかない。


 いつになったら、いいのかな。


 いつになったら、やめてもいいのかな。







 ここはばけもののためのガラスの工房。


 他に人なんていなくて。


 ばけものすらいなくて。


 ずっと一人ぼっちで働かなくてはいけない場所。


 生き物の気配はないけれど。


 誰かの視線もないけれど、


 けれど、さぼったら駄目な所。


 お仕事をさぼると、どこからともなく怖い機械がやってきて、おしおきをしてくる。


 だから、頑張るしかない場所。


 痛めつけられたくなかったら頑張るしかない場所。


 ばけものの子供の体には、たくさんのヒビが入ってるけど。


 そこは、たとえもうすぐその体が壊れるとしても、頑張るしかない場所。



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