壊れた日

「叶!!叶、起きて!!!」

「え、あ、叔母さん?どしたの?」

叔母さんが私を起こすなんて珍しい。お母さん仕事早い?おばあちゃんもいない?

「ごめんね、まだ朝じゃないんだけど…とにかく下に来て。」

「うん…」

時計を見ると夜中の2時だった。何でこんな時間に?とりあえず下行かなきゃ。

「おう、叶来たか。」

「叔父さん何あったの?」

「ああ、何だかなあ、すごいことになってんだよ。」

「ちょっと大希(だいき)、最初から説明してるチャンネルないの?」

おばあちゃんが叔父さんをまくしたてるように言った。

「…お母さんは?」

とりあえず何だか大変なことが起こってるのは分かった。お母さんが居間にいないのが私の不安を煽った。

「お母さんね今病院に呼ばれて行ったの。災害用発電のこととか色々大変なんだって。」

お母さんは市立病院で看護師をしている。たまたま昨日は休みだった。


「繰り返します。政府は40年前に打ち上げた人口太陽が機能しなくなっていると発表しました。」

不意に聞こえたアナウンサーの声。

「…え…?」

「皆様出来るだけ電気を発電しておいてください。各発電所で所有している電気は病院、高齢者のみの世帯に優先して供給する予定です。」

淡々と読み上げられるニュース。

「うちは優先供給から外れるな…」

「大希、私漕いでくるね。くるみ泣いたらお願い。」

「え、寝てろよ。俺が漕ぐから。」

居間から出て行く叔父さんと叔母さん。

「このチャンネルは節電のため午前3時半を持って放送を休止します。ご覧のチャンネルは自動的に国営チャンネルに切り替わります…」

そう言い残しアナウンサーの姿はプツンとテレビから消えた。

「おばあちゃん…怖い…」

「大丈夫だよ、大丈夫、大丈夫。何とかなるからね。」

おばあちゃんはそう言ってくれたけど顔が真っ青だった。

「おばあちゃん、何かあったの?」

「おばあちゃん、人口太陽壊れちゃったの?」

がやがやしていたせいだろう、悟と葵が起きてきた。

「大丈夫だよ、おじいちゃんも起こしてこようか。」

「俺行ってくるよ。」

悟がそそくさと祖父母の部屋に向かった。

「私、くるみのこと連れてくるね…」

悟と葵の手前、怯えてる訳にもいかず出来そうなことを買って出た。

「えーん…」

「あっくん、大丈夫だよ。泣いてたら何にもできないから!ね?」

私が居間から出ると葵の泣き声と宥めるおばあちゃんの声がした。




「そういえばくるみは覚えてる?」

「んー…覚えてないかなあ…」

「やっぱ1歳には無理か。」

「私だけ覚えてないんだよね。」

仕事場の椅子に腰掛けて不満そうに高校1年生のくるみは言った。


私は覚えている。あの時、世の中が大騒ぎになっている中ぐっすり眠っていたくるみを。くるみの寝顔に家族皆が安心させてもらったことを。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る