第35話 テンプレ展開?

俺は身体を翻し、もう一度森へと突っ走った。


「鑑定、襲われてる人の位置は?」


『......未探知。おおよその方角をポイントします。』


視野に赤色の矢印が映った。


「具体的な場所は分からないんかい!」


『現状の索敵範囲では数十メートルが限界です。もっとレベルを上げてください。』


まあいいや。今は一刻も早く何が起こっているのか確かめるのみだ。


「よし!スライム、振り落とされないでね!」


再び暗闇の世界に入った。すると目がすぐに慣れる。


「どこだ?とりあえず矢印の方角に走るだけ走ろうら。」


草木を避けながら森の中へ進んでいく。すると


「無礼な!姫様に触るな!」


と言う中年くらいの男の声が聞こえた。


「......近い!」


『索敵鑑定より 西に複数の生体反応を察知。魔物14、人族4です。


視界にマッピングします。人族が魔物の襲撃に遭っているようです。』


「了解だ!行くぞ!」


少し走る方角を変え、悲鳴の方へ向かう。


「あれか!......ってか、何で森なのに馬車?」


森の中のひらけた空間に、数人の護衛とおぼしき男と1人の女性が、ゴブリンに囲まれている。


それも、馬車を囲むようにして。


「こんな事もあるんだなぁ。まるで転生系のテンプレ展開だ。」


『転生系のテンプレ展開ですか?それよりも、早く......』


俺氏の熱弁が止まらない。


「あぁそうだ!転生した男主人公が、お姫様を襲う悪漢や魔物の類をボコし、お姫様に【お礼をさせて下さい!】って言わせるやつ!」


『何ですか?それ。それよりも馬車が......』


「俺が読んだ転生系のラノベで、5冊に1冊はそういう展開だったわwww。」


俺が小声で楽しく熱狂していると、鑑定が冷徹な口調で、


『早く助けないと間に合いませんよ。あとそれ、止めてください。』


と言ってきた。おお危ない、我を失っていた。


「そうだな。待ってろテンプレ展開!」


言うなり剣を鞘から抜いて、魔物の包囲陣に切り込んだ。


「ゴブリン相手には剣で充分!魔力が勿体無いからね!」


後ろから無警戒のゴブリン2体を軽やかに切った。


「......ってか、数多いな!」


俺が独り言の様に喋ると、


「誰だ!」


と護衛の男が言ってきた。流石に不自然だったか。登場はカッコよくないと。


「えっと......、味方です!」


と放って地面を蹴り、またゴブリンを斬る。


『あと10体です。』


このままだと埒があかないな。剣の斬れ味も相当落ちてる。刃はボロボロだ。


「火炎魔法で一掃する!ファイアランス×20!」


小賢しく逃げ回るので、乱雑に撃ちまくった。もはや、魔力を温存していた意味は無い。


『マスター!森を火の海にするつもりですか!しっかり狙ってください。』


「えっあっ......。」


確かにヤバい。炎の槍は木々に引火しようとしている。


「そうだ、スライム!水魔法で消化して!」


するとスライムがホース状に形を変えて、消化器の様な激流を噴射しまくった。


「ふう......これで安心だ。ありがとね!」


一変し、森は泥沼になってしまった。


『......ゴブリンの掃討を完了しました。』


一件落着だな。やはり、火炎魔法は強い。


「助けて頂き、ありがとうございます。失礼ですが、あなた方は冒険者ですか?」


中世ヨーロッパっぽい軽装の男が話しかけて来た。うお、第1村人!


「えっと......。冒険者では無いんですけど、その、さすらいの旅人的な?」


いや何言ってんだよ俺ぇ!!


『絶望的センスですね。』


「そうか。本当にありがとう。是非お礼がしたい。ほら、姫様も。」


と言って馬車の中に入って行き、桃色のドレスを纏ったお姫様の手を取って連れてきた。


「この度は魔物の襲撃から助けて頂き、本当にありがとうございました。危うく私達の命がない所でした。」


おお!モノホンのお姫様や!


パッと見歳は10代くらいか......いや、推測するのもおこがましいからやめておこう。


「えっと、あー。別に大した事では無いので、気にする事は無いですよ。」


「そうは行きません。私の名はリリーナ・シェルティエルと申します。この先のシェルの街の領主の娘です。異国の方なら、街を案内しましょうか?」


「えっと、なら是非お願いします。」


両足を揃えてお辞儀をした。


「そんな!頭を上げてください!感謝するのは私達です。窮地を救って下さり、ありがとうございます。」


「私からも、礼を言おう。」


お姫様と返り血に染まっている数人の護衛が、感謝をしてきた。


「ああ、じゃあ街までお願いします。」


正にテンプレ展開だ。異世界での運が高まって来たのか?


『マスターがこうも幸運に遭うとは。なんだか気に食わ無いですね。』


「何でだよ!」


俺がそう叫ぶと「どうされましたか?」と聞いてきたので、「なんでもないですすいません」と超速で返した。


周囲に人が居る状態での鑑定の使用は、思考飲みで行うべきかな。


そんな感じで、街に向かう事になったのだ(2回目)。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る