第15話 魔物討伐遠征①

「ユウキ殿の覚悟、しかと受け取った。だがせめて、これを持っていくがいい。」


手渡されたのは、小さくて綺麗な翡翠色の宝石が入っている指輪だった。


「これは私が冒険者だった頃に着けていた物だ。使用者の魔力によって、無限に能力を向上させる装飾品だ。困難に出くわした時は、これに祈りを捧げるといい。」


俺は感謝を述べ、彼は訓練場の方へ去っていった。


★☆★


「ふぁぁ、朝か……。」



目を擦りながらベットから起きて時計を見る。短針は約8時。転生して今日で4日目である。


「さてと、行きますか!」


確かにパーティを組んで魔物討伐に行くのは憂鬱だが、逃亡に成功すれば王城での暮らしはこれで最後だ。短い間だったけど名残惜しい。


正直言えばもっとたくさんの種類のご飯が食べたかった。でも、ぼっち飯は辛いな。



ドアを開け、1階の大広間を出て、訓練場に向かった。既に大勢が集まっている。



早く行って待っていると、「えぼっちじゃん〜笑」とか揶揄われそうなので、遅めに行くのである。陰キャの常套手段だ。


周囲から「陰キャまた遅刻かよ」とか非難の声が聞こえてくるが全部無視。陰キャはスキル【スルー】を覚えた!(比喩)



「全員、集まったみたいだな。これより、ヤディアの森での魔物討伐訓練を行う。先ずは、5人1組でパーティを組む。」


「既にスキルや能力などを元にパーティを組んであるから、この紙の通りに整列してくれ。」


これはありがたい!俺だけ1人ハブられる展開はどうやら無くなったな。

ゼレスさんの厚意、超感謝です!



みんながぞろぞろ動き出すので、俺はしらーっと書いてあったパーティに入った。


「うわ、陰キャが同じパーティとかまじ罪悪なんだけど〜」

「分かるそれな!」


まじかよ。クラス女子軍団1番の陽キャの如月と、その取り巻きの宮川だ。


「そうだな。足引っ張んなよマジで。」


こいつはうっぜぇ男子の阿部田か。あとの1人の男子は、至って普通な高橋だな。



「ヤディアの森にはそこまで強い魔物はいない。だからと言って、油断してはなりませぬぞ。転移後5時までモンスターを討伐したあと、この王城に戻ってくる。


くれぐれも、パーティで行動するように。」


はーい、と生徒達が口を動かす。


「皆さん、準備は宜しいかな?それでは、転移ゲートで森に向かう。」



ふと下を見ると魔法陣が描かれている。段々とそれが赤色に輝いて、辺り一面が光に包まれた。



「うっ……ここが、ヤディアの森か。」



眩い視界が晴れると、薄暗い森の中だった。木々の背丈が高くて、地上まで日光が届いていない。


「それではこれより、パーティで別れて行動を開始してくれ。何か危険な状況になったときは、ここに帰還して伝えてくれれば、直ぐに私が助けに行く。」


森の中に複数の小屋がある。ここにはある程度の兵士が在中しているらしい。


「よっしゃ、行ってみようぜ!」


次々と集団が森へと消えていく。そして俺らはどうかと言うと……



「はぁ、魔物討伐とかマジでだるいんだけど〜。」

「それな分かる笑。なんで戦わなきゃいけないんだろうね。」

「おい女子、さっさと行こうぜ。あと陰キャも、使えねぇなら置いてくぞ。」

「まあまあ、仲良く行こうよ。」


見事に分裂しているのであった。


行先が不安すぎる。俺はある程度遠くまで行って、失踪したいのにな......。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る