㐧30話 退院
———Side 向井将徒
「退院おめでとう。」
毒殺未遂より早2週間。凪のように何も無かった日々は過ぎ、今日は待ちに待った退院日である。
体はある程度使えるようになったが、それでも行動制限は無くならず不自由な日々を送っていたが、今日でそれも最後。
医師と看護師に見送られながら俺たちは病院のドアをくぐり抜けた。
「退院おめでとう。二人とも」
くぐり抜けて最初に目にしたものは、知らないメガネの男だった。
それもスーツをビシッと決め、挙句何らかの計器でも使ってるのかと錯覚するほどぴっちりとした七三分け!
こんな時代錯誤なサラリーマン見たことない! 銀行員か8、90年代の電気街にいそうだ!
「どちらさまですか…………?」
「……あっそうか僕のこと知らないのか」
????? 何を喋ってるんだこいつは? というか……
このゲームに出てくるキャラクターは大体は把握しているが……こんなふざけたメガネをしたやつは見たことない! なんだそのメガネは?? 1980年代志向のデザインじゃあねえか!
確かに向井としても、転生者高岸威としても知らない、毒殺犯も初見だが……あいつはモブだ、いちいち覚えてはいない……。
だがなんだこの、一度見たら忘れない独特な表情は!微笑してるだけだというのにッ!
「こりゃ失敬。えーとね、僕はレギオン技術部の武上って言います。よろしく」
「レギオン技術部? 向井、こいつ知ってんのか?」 「いや……?」
明らか困惑の表情を浮かべる俺たちとは対照的に武上はそのアルカイックスマイルを一切変えない、静止画かと思うぐらいに。
「あーっそうかそうか……変な人侵入しちゃったから疑ってるのか。名刺渡しますね」
さっきから武上は一方的にしゃべくり続けている。本当に一方的に。
「どうも、よろしくお願いしますね」
こっちの返答など一切気にせず、気づいたら手には武上の名刺があった……。
「え…あ、ドモ…。」
あの飯島ですら気圧されている!いつもなら多分即座に文句の一つでも言いそうなのに!
「あの……御用件は?」
「あああああ!そうだ、そうだ忘れてました!実はですね、あなた方二人はレギオン技術部が開発した最新装備のテスターに選ばれたんですよ!!」
……てすたー?
「その最新装備ってのはなんなんすか」
妙にテンションが高い武上にここでようやく飯島が質問をした。
「VRですよ!VR!それも五感全てを没入させる画期的なシミュレーション装備です!」
「VR……? それほんとに大丈夫なやつなんすか……?」
唐突なVRに飯島は難色を示す。それもそうだ。なんか付けたらデスゲームに参加させられそうな気がするぞ。昨日の今日で毒殺犯が来たんだ、何かあってもおかしくはない……!
万が一に備えて俺は後ろに回していた手を凍結させていた。何か怪しい動きでもしたら即座に凍らせるためだ。
「あ〜やっぱり名刺だけじゃ信用薄いですかねぇ」
「…‥なんの話ですか?」
「向井さん、あなた、さっきから真力手に込めてますよね?」
「‥‥ッッ!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます