㐧弐拾捌話

——Side 飯島 大和 及び 一週間前


俺はヤツのことを、名前と何も知らなかった。


だが、逆に言えばそれだけは知っている!


だからこそ恐ろしい。


能力だって、何をしたのかもあまり知らない。


めちゃめちゃ強くて、めちゃくちゃ偉い奴。


そしてそんな奴が、この弱った俺を見舞いに来た。


そう、やつとの初対面はまさに――




     “㐧弐拾捌話 既知との遭遇”


――――

気絶した直後、俺は知らない部屋に横たわっていた。

どこもかしこも痛みが激しく、只々唸ることしかできない。


ツケが回ってきたってか。


起きてから数日は痛みに耐えては悶え、無理やり眠り、悶え、眠る。

これを繰り返してきた。


それから何日か経って痛みが引いて精神的余裕ができた。


痛みと対峙する時間は過ぎ去ったが、悩みの種は変わりがわり来る。


孤独だ。


たまに来る看護師も防護服を着ている為表情もわかりづらい。

無菌室に入るまで死にかけてたのかよ、オレ。


確か無菌室から出た日にあの人は来たんだ。


ノックが聞こえて、返事をしようとした瞬間にガッとドアを開けて、現れた。


「あんた、誰だ……!」


「いや、すごい殺気だね。配達員威嚇する猫みたい。」


……敵か! そう判断して、即座に黒腕を出そうとするが、


「黒わ……グゥッッ!!」


出せない、あまりにも酷使しすぎて傷が開きそうだ……!!


「まあその怪我じゃ力入れただけで傷開くよ。やめときな?」


「質問に答えろ……! 何者だテメェ!!!」


「櫻井、櫻井司。あんたと同じかに座。」


…………は? 櫻井? あの!? あの最強の異獣ハンター……!?!?


「え、あなたが、え、ウソだろ」


「うん、嘘。本当はみずがめ座なんだよね」

「星座は関係ねェだろ!!!!!!!」


————


「君の大立ち回り、レギオンでも結構話題になってるよ?」


「ああ、ソウデスカ……。」


自称櫻井は人の見舞い品をムシャムシャ食べながら、シザースがどうなったか教えてくれた。


記憶もないが、どうもシザースは生きていたらしく、あれからレギオンに拘束されているらしい。


拘束されてからは一日中訳の分からない譫言を喋っているらしく、もはや廃人状態だとか。


やれ「ループ」だの、「あの方」だの……櫻井は最も出る譫言の一つに、


「俺はもうレールを外れた」と言っているらしい。


どういう意味かは知らんが、どうせ意味も無いだろう。


……しかしこいつホントに櫻井なのか?


わざわざメロンから食うような、こいつが?


「あ、そうだ。」


「何ですか? 見舞いの品でもあるとか?」


「それが割にちょっと言いたいことがあってさ。」


「はあ。」


「あんたら、このままだと毒死するよ」


「はあ?!!?」


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