㐧弐拾漆話 間引く価値

“人間で、建物が破壊されるところを見たことがあるか?”


死ぬ前までは迷わずNOと答えていただろう。


だが、今この瞬間、その問いと全く同じ状況が繰り広げられている。


改めて俺は、“異世界”にきてしまったと実感した。


「すごい、本当に人の形の壁の穴って開くんだ。」


まるで虹でも見たかのように櫻井は呟き、この10階の病室に入り込んだ。


「ごめんね飯島くん、こんな仕事させちゃって。」


「いや、大丈夫っスよ」


「え、あの……あの偽看護師さんは……」


俺は声が震えないよう、慎重に、目の前の強者に質問した。

生死を問うことが、俺の中で最優先だった。


「ああ、どーせ真力でコーティングしてるだろうから生きてると思うよ」


「……そうですか。」


————


「櫻井さん、どうしてあの偽看護師さんは僕の事を狙ってきたんですか?」


俺は櫻井に当然とも言える質問をした。

さっきのが心なら、今の質問は理性だ。


「向井くんほど猛スピードで強くなったらね、困る連中がいるんだよ」


「それってまさか」


「そ。異獣統師。そいつらが金出してあの看護師さんみたいなの差し向けてるわけ。」


「……異獣統師の目的って何なんですか」


思い切って聞いてみた。そういえば本編だとどんな目的だっけ?

……ダメだ、記憶があやふやになってる。


「革命だよ。今主流の人間たちを皆殺しにして、自分達異獣側が成り代わろうとしてるんだ。だから若い奴から殺したりしてる。」


「だから、将来自分達の敵になりそーな奴を優先的に殺すワケ。」


「なるほど……」


「でも革命した後どうするつもりなんです? 自分で考えた旗あちこちにブッ刺すつもりなんすかね」


飯島が間に入る形で会話に入り、


「だったら、俺の家族死んだ意味わかんないんですけど」


青筋を立て櫻井に向き直った。



地雷だ。



飯島の話を聞くに死んだ家族はおそらく一般家庭だ。

革命なら一般家庭を皆殺しにする意味も無い。


「俺の家族は若い奴でも偉い奴でも強い奴でもない。普通の、普通の家族だぞ?」


「何で、革命なんて関係ないだろ? 何で殺されたんだよ」



「まあ、意味わかんないだろうね、統制が効かない異獣が民間人を無差別に殺すことはままあるよ。」


「あ?」


「だから殺し返せ。その恨みを、全て異獣にぶつけろ。」


見たことのない迫力だった。

顔に凄みを効かせただけじゃできない”圧“があった。

飯島もそうだったが、彼も同じぐらい異獣を憎んでるのが伝わっていた。


「飯島、偽看護師は君も狙ってたんだぜ。初めて会った時言っただろ?」


「…………」


飯島は何も言い返さない。


「お前らには殺される価値がある。そうでしょ?」


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