㐧十九話 暗中
東京都郊外のとある廃墟__。
異獣駆除討伐専従班、通称「DSFT」の錚々たる面々と……高校生二人が集まっていた。
「向井……思ってたよりコレ滅茶苦茶緊張感あるなァ……!?」
「当たり前だろっ、一歩間違えりゃ人が死ぬんだぞ? そりゃ雰囲気も張り詰めるだろ。」
飯島のふざけた感想を一蹴し、俺達はDSFTの一歩一歩に続いた。
いくら真力が使えても……俺達は素人のぺーペーでしかない。
この任務で命を落とすこともあり得る。
むしろ……その可能性のほうが高い。
噛ませ犬と言うと語弊があるが……異獣に殺される危険性は俺たちが一番高い。
「遺言書でも書いときゃよかったな。なぁ飯島。」
「縁起でもないこと言うなクソがッ! 本当に死んだらどうすんだよっ!!」
「おい! そこのガキッ! 静かにしてろゴミがッ!」
あまりにも騒ぎすぎたのか、明らか2目つきの悪い男が注意……いや、罵倒した。
「……すいません。」
謝ったのは俺だけ。飯島はなんとも複雑な表情をしていた。
罵倒されたのはムカつくけど……でも先輩だし……みたいな葛藤が顔に描いているようだった。
やっぱりコイツ、アホだ……。
「行くぞお前ら……仕事の時間だ。」
俺の本編の記憶ではDSFTは、はっきり言って強敵に倒される雑魚キャラたちに過ぎなかった。
それこそ、東雲が対峙する敵の強大さを示すための“かませ犬”かのように。
今の状況から察するに……今回俺たちが相対する異獣統帥は_____"シザース"。
大した実力を持たない、野心だけは一人前の男。
本編ではDSFTに瞬殺される役どころだ。
メタ的視点を持っている俺だから言えることだが……今回の任務に俺たちを動員させたのは得策だろう。
そうに違いない。
そうだ。きっとそうなんだ。
こいつに限って……。
五十嵐や飯島の様に様変わりするわけがない。
そう思っていた。希望的観測。渇望。
所詮そんなものに過ぎないが……俺はそんなものに縋りたいように気がしていた。
もちろん本気でそう思っている訳じゃあ無い。
だが……心の何処かでシザースが雑魚であることを望んでいる自分がいた。
それは間違いない。
そう、思いたかった。
思いたかった。
そんな後悔というか、懇願にも近い思いを胸に、俺は蹂躪されるDSFTを、ただ黙って見ている事しか出来なかった。
「こんなチャンス……逃せるわけがねェッッッ……!!!」
そう、まるで演説かのように叫ぶ彼の姿を……黙って。見ている。
「マジかよ……! おい……どうすんだよ! 向井!」
完璧ともいえる……その両腕の双鋏を振り回す姿は……鬼気迫るものがあった。
そんなシザースの姿に見入る俺に、俺の視界の端に飯島はパニックになりながら問いかける。
必死に叫ぶ彼さえも……俺は風景としてみることしか出来なかった。
何かが狂っている。
間違いない。
間違いないんだ。
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