㐧十八話 選ばれてしまった人間
補助輪との戦いから数日たち、俺と飯島は道永に呼び出された。
「今日はお前らに話がある。」
道永はとんでもなく思いつめたような顔をしていた。
「何ですか……?」
「お前らを異獣駆除現場に、サポートとして派遣することになった。」
「は?」
「先生……流石に冗談すよね……?」
「私は冗談なんぞ言わん」
道永とは、正直に言うとあまり接点がなかった。
本編ではヒロインの一人となるキャラだが、
現時点では単なる厳しい鬼教官に過ぎなかった。
「もちろん私も同行する、心配は無用だ。」
その言葉に俺はどこか不安な物を感じた。
単なるゲスキャラに過ぎなかった飯島が、親しみやすさと狂気じみた復讐心を持った人間になったように、彼女もまた、なにか“変化”があるのではないかと___。
薄々わかってはいたが……俺の今いる世界は何かが狂っている。
それは世界の常識か、はたまた誰かの常識が狂っているかは分からない。
そう、分からないのだ。
人間は不明瞭なものに最も恐怖する。
不明瞭な何が、己を殺すかもしれないから。
少なくとも彼女が、道永が本編と変わらない動きをしているのは確かだ。
道永は本編でも、異獣ハンターのサポートの派遣を依頼したからだ。
変更点はただ一つ。
飯島と俺ではなく、飯島と東雲が派遣されたこと。
ただそれだけ。
ただそれだけの違いが、俺を恐怖させる。
バタフライ・エフェクトのように、とんでもない展開になってしまうんじゃないかと。
そんな恐怖が俺の胸中に、アメリカのハリケーンかのように渦巻く。
蝶のかすかな羽ばたきが、歴史を変えているんだ。
そんな現象、怖くて仕方がない。
でも……単なる陰キャだった俺が、半ば自暴自棄に起こしたブラスト凍結事件がそもそもの始まりなのだ。
ならばこの出来事は……俺が何とかしなければならないのだ。
あとしまつを、つけなければならない。
責任が運命を操作するのだ。
ならば最悪な結果を……少しでも回避しなければならないのが、二回目の俺の人生のノルマなんだ。
転生なんて、神様が軽いノリでやってくれるものと、
死んだ代わりのボーナスだと。
生前の俺は思っていた___。
だが違う。たとえ転生したとしても、何もかもうまくいくわけじゃない。
誰かの人生に、俺は乗っかり、そしてその責任を負う事が……転生の、この異常な現象の真理なのかもしれない。
「おい、向井聞いているのか?」
深く考え事していた自我は、目の前の女性に一気に引き戻された。
「あ、いや、すいません! ちょっと寝不足なもんで……。」
「何だと!? 気合が足りんぞ貴様!」
眼の前の人間は……人間だ。
少なくとも……プログラミングされたキャラクターではない。
それは俺の希望論に過ぎない。
だが……その希望論に俺は藁にもすがりたかった。
なぜかは、分からない。
兎に角今することは……道長の命令に……「はい」と従うしかない。
それが俺の、向井……いや、高岸としての役目に過ぎなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます