㐧十七話 成果

 真っ先に飯島は補助輪を撃破した。


 できる。俺ならやれる。


 呪文のように心の中で唱え、俺は補助輪に突っ走った。


「うおおおおおっっ!」


 俺は……できる。あれだけ飯島とやったんだ。


絶対零度ケルビン・ゼロォッ!」


俺は手を振りかぶり、それを補助輪に大きく振った。



その瞬間



すべての補助輪が一瞬にして凍った。


実戦訓練場で化学生産され、まるでボウリングのピンのように放出される補助輪が、何百もの個体が、全て。


さらに、凍っていたのはだった。

正確に言えば補助輪の足についた地面も一緒に。



「や……やった! できた!」


達成感と、安堵のような気持ちが湧き上がる。


まるで議員として当選したような気分だった。できることなら万歳したい気分でもある。


だが、周りの反応は補助輪と同じぐらい冷ややかだった。

物理的じゃなく、心理的に。


“俺が育てた”感を出してる飯島を除いて、全員顔が引き攣っていた。


「はははは!! やったな向井ィ!」


恐らく彼らの感情としては——恐怖に近いものがあるのかもしれない。


飯島は強いが、数体同時に屠る程度。それに比べると、明らかに異常なのだ。


三上も五十嵐すらも恐怖している様子だった。


「す、すごいね……向井君」

近くにいた女子が、距離をとりながら上っ面の言葉を掛けた。


孤独だった。


そういえば東雲はどうしているだろう。


実践訓練場を見回すと———東雲はなぜかぶっ倒れていた。


「東雲!?」


気絶した東雲を抱きかかえながら、俺は頬を叩く。


「おい、おぉい!」


何度か頬を叩いているうちに東雲の目が開いたが、完全に意識は覚醒していない様子だった。


「……あ、将徒。助けてくれたんだな……。」


「何があったんだよお前……」


所々傷がある。どうやら補助輪にボコられていたらしい。


「いや、真力覚醒したんだけど、いまいち能力の使い方わかんなくて……取り敢えず自分にかけてみたらなんか力が抜けて……」


……そうだ。東雲は大器晩成型だった。最初は弱いが段々と強くなり、最終的にとんでもないチート能力になる男だ。


本編では飯島にそのことで虐められたりしてたんだっけ……。


「……おれ、全然ダメだわ。」


そう言い残し、東雲は担架で医務室に運ばれていった。


俺と東雲は対極のようで似たもの同士だった。


強すぎるか、弱すぎるか。


恐怖か、軽蔑か。


———


訓練が終わったあと、俺は医務室にいる東雲に会いにいった。

医務室の扉を開けると、そこには三上と五十嵐が側に座っていた。


「お前らも来てたのか……」


「まあな」「そうね」


俺たち四人は同じ動機でここに来た。その同志が倒れたとなると、やはり見舞いに行きたくもなる。


「東雲、大丈夫か?」


包帯を巻かれた彼は、目こそ開いているがそこに生気を全く感じなかった。


「……大丈夫なわけないだろ。」

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