㐧十六話 いざ出陣

飯島の肉体にヒビが入ったところで、俺たちは何日も掛けた勝負をやめた。

いい加減辞めないとどちらかが殺しかねないからだ。

彼には珍しく、“引き分け”と言う形を採った。


訓練や座学授業を経て、俺はブラストが来た時よりも何倍も強くなったはずだ。

だが……俺は異獣と戦ったのはブラストだけ。



人間としか戦闘経験がないのは、不安だ。



そんな折、櫻井から電話が来た。電話番号なんて教えたはずないのに。


「よっす〜櫻井だよ。どう?調子」


「電話番号……教えましたっけ?」


「え?教えてもらってないけど?」


「じゃあどうやってかけたんですか!??」


「ユウカっちに教えてもらったんだよ〜」


「そんな簡単に……」


「君を監視するのが僕の仕事だもの。同じ自然覚醒者として」


「ところで、訓練校はどう? みんなと仲良くやってる? 確か9期生だよね?」


俺たちはブラストの事件を同機として訓練校に途中入校した。

入学式も形式的なものですぐに終わって……。


あれ、あの日何があったんだっけ?


何かこう、体調が悪くなったような……ないような……?


「おーい向井君? 聞いてる?」


「あ、すいません。考え事してて」


「え。もしかして馴染めてない感じぃ?」


「言われてみれば……あまり仲良くなった人間はいないかもしれません。」


「それまじ〜?」


「“飯島大和”っていう人とは仲良くなったんですけどね……。」


「“飯島”?」


「ええ。飯島大和。最近鋼鉄化能力を得て、僕としばらく特訓してたんです。」


「ふぅん……へぇ……あぁそう……。」


「飯島がどうかしたんですか?」


「……ぃや? なんも?」


「それ以外の子は? ほら、五十嵐ちゃん、三上ちゃん。あと……」


「何だっけ」


「東雲です。東雲燈摩」


「ああそうだ。東雲だ。」


そのあと数十分ほど櫻井と取り止めのない会話をしてから、俺は電話を切った。


櫻井と東雲には面識はまだないのか。あいつのには目を張るものがあるのに……。


—————


その数日後……遂に訓練校で実戦訓練が行われることになった。

敵は異獣。だが特殊なクローン体で戦闘力は低いものだ。


正式名称は「養殖式弱体化人工異獣LS-07」。

あんまりにも長いので訓練校では主に「補助輪」と呼ばれている。


姿は緑色でずんぐりむっくりとした体躯をしており、例えるならゴブリンのようなものだった。


「奴は戦闘力こそ低いが、当たればそれなりに痛いぞ。舐めてかかるなよ。」



道永の合図と警告と共に模擬戦は始まった。


「っしゃぁ……! こい!緑色の変なのォ!」

先陣を切ったのはやはりこいつ。


飯島大和だった。


「ギシャアァアアァッ!」


飯島の突進に応えるかのように補助輪も飛びかかる。

戦闘力は抑えられているとはいえそれなり素早く、強い殴打の応酬が始まった。

曲がりなりにも異獣なのだ。


だが……。

「ふん……柔い柔い柔ァい! ドラァ!」


鉄腕ともいうべき黒光した右腕を勢い良く振るうと補助輪は2、3mほど吹っ飛んだ。


「ギベェッ!」


まだまだ補助輪はうじゃうじゃいるが……真力持ちもいっぱいいる。


さて……9期生の能力を観察しないとな……。

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