㐧弐拾話 全く知らない前世のカタチ

何かを悟ったかのような目で、シザースはメンバーを蹂躙していく。


「何なんだよアイツ……! 聞いてた話と全然違うじゃねえか!」


メンバーの一人が息を切らしながら叫び、俺と飯島はそんな彼を見よう見まねで消毒していた。


完全なる異常事態だ。


『所詮お前らは見ていることしかできんだろう。見学ぐらいで行ってこい。』


直前で聞いた道永の言葉が脳内でリフレインする。

こんな窮地に立たされるなんて聞いてないぞ……!


必死に焦りながら包帯を巻いていると、自分の携帯PHSから着信音が鳴り響いた。


「おい…マナーモードぐらいやっとけよっ! 全員殺す気か!」

小声ながらも怒りに満ちた声でメンバーに叱咤される。


前世でも使ったことがない、スマホじゃない携帯の画面を見ると、そこには道永の名前が表示されていた。


「すいません、電話出ます」


「おい向井何やってんだよ!」


飯島を無視して俺は恐らく通話ボタンであろうものを押す。



確かに息を潜めることが最善の行動かもしれない。

だけども俺は、このまま隠れても時期にシザースに八つ裂きにされると……そんな直感が胸中に渦巻いていたのだ。


「おい! 向井、飯島! 生きてるか!?」


緊迫した声がスピーカー越しに伝わる。


「今すぐ撤退しろ! 一緒に行動してる人間がいたらそいつにも伝えろ! いいな!」


「———わかりました。」


撤退。それ即ち敗北を意味する。メンバーにとってもレギオンにとっても最悪な結末。


最悪なのはこの状況でそれが最善策であることである。


もう逃げることしか、命を繋ぐことはできないのだ。


「飯島——帰ろう。」


その3文字を口にすると、飯島は烈火の如く怒鳴り出した。


「ふざけんなッ! あのハサミ男にやられてる人たちを見捨てろっていうのか!?」


「そうだ」


「てめぇ———」「そいつの言うことは正しいぞ。クソガキ。」


今にも胸倉を掴みそうな勢いで迫る飯島に、メンバーは答える。


「何を思い上がってるが知らないが……今のシザースは明らかに異常な戦闘力を持っている。お前が突っ込んでも死ぬだけだ。」


死んだ魚の目をしたメンバーはつらつらと吐き捨ていく。


「やってみないとわかんねぇだろ……!」


「わかるよ。この状況が何よりもその証拠だ。」


「お前みたいな何にも知らない、真力の使い方も下手くそな奴が行っても死ぬだけだ。無惨にな。」


「それとも何だ? お前……死にたいのか?」


わずかな虫の鳴き声と月光を背景に血まみれの男は語る。


「さっさと帰ろうぜ。」


「嫌だ。」


「は?」


飯島の意味不明な返事と同時に……奴は来た。


シザースが———。




俺たちの背後にいた。


「よお……!! 飯島……!」


「シザース!!!」


「てめえ……! よくも人間を……!」


「飯島と……そこにいるのは討伐部隊の人間と……誰だ?」


明らかに目が据わった彼は、何故か初対面のはずの飯島の名前を呟く。



何故知っているんだ……? 飯島大和という存在を。




「何ボケっと突っ立ってんだよ……? 答えろよ、お前は誰だ?」


「おいハサミ男ッ! てめえの相手は俺だ!」


そう叫びながら飯島は突撃していくが——奴は目にも留まらぬスピードで

両腕の鋏を動かし……飯島の鋼鉄化した腕に傷をつけた。


それはまるで粘土を裂くように簡単に。


「飯島……。お前の事はいいんだよ。所詮ルーキー未満らしいしな。」


「何で俺のこと知ってんだてめぇ……!」


「俺は何でも。俺自身の未来を——。」


何だ……? 言っていることが理解できない。


「分からないか……。なら教えてやろう……!どうせお前らは死ぬだろうからな……!」




「俺がここで殺されるのは知ってる。いや、正確に言えば……ここで。」


「俺は今、人生2週目って奴だ。」


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