㐧十三話 剣士の犬歯

同時期に訓練に入った中で、五十嵐華帆は本編にない能力を得ていた。


真力を剣に込めるだけでなく……さらに上の能力を。


真力を錬成し、己の生命本能を移し替え、にしたのだ。


“それ”は4本の足で歩き、3つの頭を持ち、2つの体色が輝き、とある1つの神獣に似ていた。


その神獣の名はケルベロス、冥府の番犬。


彼女の本能の根底にケルベロスがあった理由は定かではない。

それだけ凶暴だとか、何か闇でも抱えているんじゃないかとも言えるかもしれない。


実際“それ”は恐ろしく凶暴で、強大で、狂気じみた強さを持っていた。


だがそんなことはどうでもいい。


「例えそれが害獣だろうと、私は必ず飼い慣らします。」


澄んだ瞳で彼女はに宣言した。


それが異獣を殺す手段になるのならば……なんだっていい。


————


彼女が使い魔のようなものを召喚できる事を知った時、俺は腰を抜かした。

そんなことあっていいのかと。


まあ……俺も櫻井司と同じようになった事考えるならば、ありうる話ではある。


だが、あくまで能力の覚醒時期が早まっただけの俺と違って彼女は全く別の能力を持ったのが不思議だった。


飯島の性格もそうだし、本編のシナリオと徐々に乖離はしている。

しかしその原因は、本当に俺が転生してきたからなのか?


俺だけが本編に沿わず生きたからこんな事になったのか……?


「だぁーっ! 考えるのはやめだ!」


とにかく今は、自分自身のことを考えろ。俺!


実戦訓練も始まってきた。日も沈み時間が経った。

ならば……。


「もう、寝る!」


乱暴に布団を捲り、俺は眠りについた。


—————


時刻は午前6時。普段ならこんなには速く起きない。

じゃあなぜ起きているかだって……?


それは俺の部屋に不愉快な……いや、大変愉快なクラスメイトが来ているからだ。



「向井将徒!!起きろ!!起きないとドアを叩き壊すぞ!」



「帰らないとお前をぶっ飛ばすぞ」


「帰らない!」


「ぶっ飛ばされたいなら素直にそう言ってくれよ……もういい、入れ、近所迷惑だから、存在が(?)」



という訳で今に至る。


「何しに来た飯島。俺の部屋に来ても良いなんて一言も言ってないぞ」


「来るなとも言っていないだろう!」


「だぁーっ! 先に理由を言え! 理由を!」


「朝練に行かないか」「断る」


「何故だ!」


予想通りだ。こういう妙に頑固というか、折れないところは本編に似ているから厄介だ。


「いいか!? 五十嵐があんなバケモン出してきたんだぞ!? そんなのこっちは根性と気合で鍛えるしかねぇだろ!」


「昭和か」


「昭和……?」


———そうか、この世界に昭和はないのか…。


「……何でもない。とにかく俺は行かない。アーキタイプのお前と違って俺は効率を求める男なんでな」


「行かないとどうなるか……分かってんだろうなァ?」


……お? 本編みたいな喋り方になったぞ?


「…‥俺はお前と同じく、真力を持った人間になった。そして真力をどう使えるかは自分だけが知っている。」


「それが……?」


まさか力を持って俺を嬲るんじゃないだろうな……?


「さて……」


「お前の部屋がどうなってもいいのかなぁ〜〜!?!?」


「いや部屋かよ!」


「部屋以外に何があるってんだ!」


「そりゃ俺の体をそれはもうボコボコに……」


「んなことする訳ないだろうっ! 真力は清く正しく使うべきものだ。」


「部屋をぶっ壊すことが清く正しい訳ないだろ」


「とにかく向井! 訓練校の訓練場で待ってるぞ」


そう言って彼はドアを乱暴に開け去っていった。


まさに嵐を呼ぶ、いや嵐そのものの様な男だった……。





「‥‥まあ、行ってやってもいいか……?」

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