推しとの遭遇

「キミがブラストを凍らせたんだっけ?」


突然教室に入り込んだかと思えば、彼女はその整った顔を一気に近づけた。

仄かに香る匂いは甘く、薄い茶髪の跳ねたショートカットが太陽光を反射させていた。


彼女の名は近元芹那ちかもとせりな。三上や五十嵐に並ぶヒロインの一人で、


俺が生前一番推していたキャラである。



そんな彼女がガチ恋距離にまで顔を近づけているのだ。

正直夢でも見ているのかと錯覚する。


正直目を合わせているのもやっと。


「ええと……まあ、はい。」


多分顔真っ赤だろうな……。

そんなことを考えていると彼女は不審そうな顔をした。


「どうしたの? 顔赤いよ」


やっぱそうか……! やばい、鼓動もだんだん速くなってきた。挙動不審一歩手前だ。


「え、いや」


俺が返事を返そうとした瞬間、彼女は突然額を俺の額に押し付けてきた。


「びゃ」


「うーん、熱はないみたい。」


「あ、そ、そうですか、ありが、とうございます。」


生前の推しキャラに突然こんなサービス(?)を受けられるとはおもっていなかった。


もうやばい。挙動不審だろうな、俺。


「あはは! 噛み噛みじゃん!」


「まあ、ちょっと顔見せに来ただけだから、帰るね!じゃ!」


そう言って彼女は嵐のように消えた。

「何だったんだ……」


———


げっそりとした顔でゾロゾロと教室に人が戻ってきた。


「大丈夫か……? 東雲」


「大丈夫なわけないだろう。死ぬほど痛かったんだぞ」


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