㐧十話 転

“視点・????”


オレは目的を成し遂げた。やっと、ついに、“平穏な暮らし”ができるんだ。

“彼”は元気でやっているだろうか。“目印”が正しければ、きっと彼も喜んでいるはずだが……。


————


訓練校で待っていたのは、やはりというか、報いというか、質問攻めの雨霰だった。


「なんで櫻井さんがあなたの部屋に来たの!!??」


「分かりません」


「異獣統師を見たって本当か!??」


「知りません」


「櫻井さんの能力って公表されてないよね? どんな能力だった!?」


「記憶にございません」


「「「そんな訳ないだろ!!!!」」」


勿論顰蹙を買う。それはもう。爆買い。


だが言える訳ないだろう……彼は現状ユウカを凌ぎ異獣統師を殺せる唯一の存在だ。


能力も知られない、顔も証明写真だけ、いつもどこで何をしているかも分からない……。


彼を“知られない”事が、異獣や統師に対して有利なのだ。


それに知られでもしたら対策を練られかねない。万が一殺されでもしたら、それこそ日本中のあちこちでブラストをも超える大虐殺が毎日、いや毎分のように起こるだろう。



まあ……逆の立場だったら聞きまくるだろうな、特にゲームの向井の性格なら尚更聞いているだろう。


ギャアギャアと騒ぐクラスメイトたちを横目に俺は“主人公”に話しかける。


クラスメイトたちと対照的に彼はとても静かだった。


というか、寝ていた。


「何寝てんだよ東雲……お前そんなキャラだったか?」


「……うるせー。寝不足なんだよ」


「ゲームでもしてたか。」


「夜なべしてエロゲーやってるお前にだけは言われたくない。ちょっと不眠症気味なだけだ。」


今朝から……いや、ブラストを凍らせてからずっとこうだ。何やら様子がおかしい。


まさかもうヒロインに手をつけてるんじゃないだろうな。


「じゃあ彼女だな、お前はしれっと童貞を卒業するタイプだ、俺にはわかるんだよ。」


ゲームでもそうだったからな。


「お前、もういい加減にしないとマジで殺———」


東雲はイラついて俺に文句を言おうとしたが……何やら急に黙りこくって顔を青くした。


「どうした?」


「なんでもない」


「あるだろ」


「ない」


「あ———」


「ない。」


東雲のその顔に俺は何も言えなくなった。少なくとも不眠症気味なのは事実だろうだが——。


「分かったよ。悪かった。好きなだけ寝てくれ」


俺は喧騒が支配する教室を後にした。

授業までまだ時間はある。




******

作者です。ごめんなさい。今日は短めです。

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