㐧九話 運命
帰りの車内を支配していたのは、沈黙だけだった。
時刻は既に0時を過ぎていたが、眠気も無かった。
圧倒的な力を見せずとも“誇示”しながら不敵に嗤う顔が、脳裏に焼き付いて離れない。
だが同時に、それ以上に、奴のあの困惑の顔が、俺をさらに恐怖させる。
何故デザイアは俺に対してあんな顔をしたのだろうか?
分からない、理由が分からない。
だからこそ、怖い。
もしかしたら、俺には異空間送りよりも恐ろしい、シナリオが、運命が待ち受けているかもしれない。それがどういう事なのかは分からない。確かな事なんて何もない。
人間は分からないことに恐怖する。本能が暗闇を恐れるのと同じように。
「……あいつの名はデザイア。異獣を操ってるヤバい奴だ。」
「あいつが操る異獣で何千人も死んでる。何万人も怪我させたり、路頭に迷わせてもいる。」
「……」
「あいつを殺す事が、俺の生きがいだ。」
「殺す為に俺は生きてるし、生きる為に、俺はデザイアを殺す。」
「それが異獣ハンターの仕事だ。……見学になった?」
「……ええ、とても」
「たとえあいつが俺よりどんなに強くても、俺がもうグチャグチャになっても、殺さなきゃいけない、仕事を全うしなきゃならない。」
「だから……向井君に向いてるよ、この仕事。」
「まあ、生き急げって訳じゃないけどね。」
「……ありがとうございます」
「明日……いや、今日はゆっくり休みな、テーブルも元に戻ってるはずだ。」
———
櫻井と俺を乗せた車は、寮に無事に到着した。
「今日はお疲れ」
「お疲れ様です、ありがとうございました。」「うん」
「あ、そうだ」
「はい?」
何かを思い出したかのように櫻井は振り向き、こう言った。
「冷蔵庫のプリン、美味しかったよ」
「……は?」
……やっぱり変人だ。だが櫻井と過ごした数時間は、確実に有意義な時間だった。
冗談かと思って冷蔵庫を確認したら、
「……本当になくなってる。あの野郎……」
マジで食べられてたのは割とイラついた。
—————
太陽が真上に登る頃、俺は目覚めた。
身体中が——特に足がひしひしと痛む。筋肉痛だ。
だが痛みよりも、さらに重大な事態がこの部屋に起きていた。
「なんでいるんだ、三上……鍵閉めたはずなんだけど。」
何故か三上悠亜が俺の部屋に入り込んで昼飯を作っていたのだ。
なんだこの状況? 新手のDLCか?
「先生に話聞いて、合鍵もらった。それより本当なの? 異獣ハンターの見学に行ったって」
こっちに顔もむけずに三上は料理をしながら昨日のことを聞いてくる。
「本当だよ。櫻井って人に誘われて」
「……櫻井!? あの櫻井さん!?」
「そんなにすごい人なのか、あの人。」
一応すっとぼけてみる。
「すごいも何も、日本初の真力覚醒者だよ!? どうやって!?」
「しかもユウカさんに話しつけてもらって行ったんだよね!?」
「ああ、うん……そうだよ」
寝起きには厳しすぎる大声で質問されながら、俺はなんとか答える。
「すごい……じゃあテーブルが凍ってたのも……」
「それは俺」
————
質問が終わったあと、三上の訓練校での話を聞いていたら、料理が出来上がっていた。
「はい、チャーハンよ! これ食べて明日から頑張りなさい!」
新手のコラボカフェか???
「ありがとう。ちょうど腹減ってたんだ。」
「でも良く授業抜けれたな。」
「先生がうまく行ってくれてね。まあ、もうすぐ戻るけど。さ、食べて食べて!」
ちょっと濡れてるテーブルに三上特製チャーハンが置かれ、俺は思わずガツガツと食べてしまう。
いけない、こんなんじゃあ彼女も引いてしまうだろう。
「……ふふ。そんなにお腹空いてたんだ。」
……と思ったが、案外嬉しそうだった。
テーブルに向かって座り、食べ続ける俺を笑顔で見つめる。
「…………」
近い。めっちゃ近い。近いからわかる。めちゃくちゃいい匂いする。
女子がいい匂いするって本当だったんだ。
あとめっちゃ可愛い。顔がいい。俺疲れてるのかな。
「……どうしたの? そんなに見つめて」
「いや、なんでもない。」
胸の高鳴りを悟られないように、俺はチャーハンを完食した。
美味しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます