㐧八話 邂逅

「ま、こんなもんでしょう! 勉強になった?」


アニマスの血液塗れになりながらも、櫻井は笑顔で俺に問いかける。

肉片のレッドカーペットが広がっていた。まるで、そこを歩く彼の実力を示唆していたかのようだった。


「ええ、まあ……」


勉強にはなった。本当に凄い人は、参考にならない事だ……。


「あー汚れた! シャワー浴び———」


フェイスシートで顔を拭く彼の背後に“何か”が蠢く音がする。

まだ居るのか……異獣が!?


「くっそ〜〜がいたか、こりゃ面倒だぞ」


そう言い終わらないうちに、彼に向かって凄まじい速さでその“何か”が迫る。


「向井君、先車乗って頭隠しといて〜。」


「え、一人じゃやばいんじゃ——」


「いや、そうじゃなくてさぁ」


彼がそう言った瞬間、強力な衝撃波のようなものが彼の周りに広がり、“何か”ごと吹っ飛ばす。


あまりにも強力な衝撃波。俺の全身にまるで平手打ちされたかのような衝撃が走り、そのまま2、3mほど転んでしまった。





「‥‥ッッ!」


さっきまで人の冷蔵庫を勝手に開けて中身を物色していた男とは思えない冷たい声色だった。


纏う雰囲気すら違う。別人のようだ。


「さ、早く」


「分かりました! お先に失礼します!」


そう言って俺は全力全開で疾走する。



あの“何か”は低級異獣を生成する中級異獣“マニファクス”だろう。

ゲームでも中ボスで、威力が高い技を出さなければ殲滅できない強敵。


後方では大きな音がする。ガラスやアスファルトが砕ける音だ。

きっとかなり広範囲の念力技を使ったんだ、あの場にいたら本当に死んでいただろう。


明るい通りに一刻も早く抜けなければ——。そのことしか頭にない。

心臓の鼓動音が、だんだんと大きくなっていくのがわかる。


だがそれ以上に大きな“声”が俺の耳に届いた。


「向井君ストップ!ストップ!!」


櫻井の声だ。もうマニファクスは倒したのだろうか?


「今すぐ戻ってきて、なんか——ああもう、」


!!!!」


彼が声を荒げるほどの事が向こうであったのか——?


嫌な予感が全身を駆け巡る。


戻ってみるとマニファクスの残骸と————



会う事がないはずの、一人の男の姿があった。


「ごめん。向井君、


何故こんなところにいるんだ……上級異獣統師、“デザイア”が……!?


奴は本編の後半で登場する、ラスボスに次ぐ実力者だぞ……!!


「真力持ちを逃がすとは……舐められたものだな」


「No.2さん直々に……何しにきた?」


「ちょっとしたご挨拶だよ、櫻井君と……何?」


デザイアは俺の姿を見た瞬間、驚いたような顔を見せた。それは俺と同じ、を見た顔だった。


何故そんな事がわかったのか、それは俺にも解らない。直感というしか他ならなかった。



「まさか真力持ちがそんな小僧とはね……。」


「手を出すな、出したらあんたもタダじゃ済まない。五体満足でいたいだろ?」


「ああ、確かにそうだな……ここは帰るとしよう。」



デザイアはそう言って姿を消した。


それが俺と、デザイアの初めての出会いだった。


本編では俺を異空間に送った———因縁の相手の。

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