㐧七話 警告の先へ

櫻井司は本編ではもう少し先の登場になるはずだ。


新人異獣ハンターとして活動を始めた東雲に対して、その実力を見初め協力関係を築き、それがまた東雲の主人公としての格を上げる———。という筋書き。


ざっくばらんにいうならば「お前若いのにやるじゃん!」ってヤツである。


だが今回の訪問で櫻井は俺を見初めるというより———

と言った方が正しいだろう。


真力解放訓練を経ずいきなり真力を使えるようになったのは、歴史上真力を初めて使用した櫻井と俺以外いない。


本編なら櫻井のみ。つまり彼にとって俺は脅威になりうる可能性さえあるのだ。

ここで俺が悪意ある低俗な人間ならば、彼は俺をこの場で殺しさえするのだ。


過度に力を持つ人間は異獣と何ら変わりはしない———櫻井はそう考えている。


「向井君さあ……この後予定ある?」


「は?」


「俺夜に異獣狩りに行くんだけどさ、着いてかない?」


「はぁ?!」


いきなり何を言い出すんだこの男は!? 本編でもここまでエキセントリックな行動はしないはずだぞ……!


「ちょっ……ちょっと待ってくださいよ! そりゃ僕は真力使えますけどシロートですよ!?」


「大丈夫大丈夫、雑魚だから。少なくともブラストよりかはマシだし。俺がチャチャっとやっつけてる間に見学するみたいな、ね? どう?」


「いや、明日から訓練も」


「大丈夫だって! 話つけとくから、夜間の見学の訓練だって!」


「道永先生にですか……?」


「いや? ユウカに。」



「あのユウカさんにですか!??!」


「大丈夫大丈夫大丈夫!!! ね!」


—————


「いきなりこんなことになるなんて……」


「人生思い切り大事よ。」


あまりにも押しが強い櫻井によって、俺は結局異獣ハンターの”現場“を見学することになってしまった。


彼の乗り回す車は高級外車であり、異獣ハンターとしての給与も多いことが伺える。俺は夜の街をその車窓からただ眺めることにした。櫻井の相手をしても疲れる。


繁華街に入ると夜景は一層煌めく。沢山の人々が日々の生活を営んでいる。

何年も続く、”当たり前の日々“だ。


異獣はそれを当たり前に、壊滅させる。まるで赤子の手をひねるかのように人間の首を折り、花火で戯れるかのように建物を爆破する。


力を持ったからには、俺は異獣から人々の営みを、”当たり前の日々”を守りたい。


夜景を眺めながら、俺は異獣と戦うことを改めて決意した。

ゲームのシナリオを変えられても、そこで生きる場所が焦土なら何の意味もない。


「着いたよ。」


櫻井の声色は心なしか落ち着いたものだった。

これからの戦いへ、心を切り替えたようだ。


「誘った側が言うのも何なんだけどさ、一応警告するね。」



「向井君、異獣には絶対に近づかないで。あくまでこれは見学。わかった?」

「はい」


「ブラストの時みたいにはいかない。それだけは覚えといて。」


「分かりました。」


如何に自分が無謀な行いをしたか再認識させられる。

思い返せば、あれはもはや自殺行為だ。


「それじゃ行こうか」


そう言って櫻井と俺は車を降りた。“現着”というやつだ。


「こちら櫻井。低級異獣出現ポイント到着。」

『了解。その少年は何だ。』



「僕と同じ自然真力覚醒者です。見学の為に。」


『そうか。了解した。くれぐれも頼むぞ』


『——————————。』


「了解。」


レギオン司令部と連絡を取った櫻井は一人でトボトボと歩き、やがて止まった。


「じゃあ、ここで見てて。」


目の前には低級の異獣———“アノマス”が居る。

ゲームでは所謂雑魚キャラ。だが生身の人間を容易く真っ二つに裂くことができる、危険な異獣でもある。


「“斥け“。」


何か言ったかと思えば———。


「ギイイエエエエアアアアッッッ!」


次の瞬間、肉が裂けるような音と共にアノマスが散る。

この程度なら彼にとっても息をするように楽な仕事だ。


「向井君、教えといとく。一体アニマスがいたならば———。」


「百体居ると思え。」


闇夜から仲間の断末魔を聞きつけたアノマスが大量に迫る。


だがこの状況でも彼にとってなんてことは無い。


彼の有難い知識を聞いたその瞬間———。


大量のアノマスが肉塊と化した。

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