㐧四話 limit
そしてその次の瞬間、甲高い悲鳴のような音と共に———
ブラストは氷結した。
「がぁ……はあっ……!」
限界を超え、生命の危機に瀕した事で、俺は真力の制限を自力で解除した。
本能では受け入れ難い事実だが……理性ではそう受け止めるしかなかった。
真力はどの人間にもある程度は存在するが、肉体を保護するため本能的に制限がかけられている。
ゲーム序盤では“組織”による、厳しい訓練と痛みを伴う脊髄手術で真力の制限を解除したが——まさか俺が最初に解放するなんて。
少なくとも本来のシナリオからは、大分逸脱してる……今にも手放しそうな意識で、そう思った。
「将徒!」「向井!」
だが、このやり方じゃあ失敗だ。俺はもうどうしようもない程負傷してしまっている。
恐らく、死ぬだろう。自分がどうなっているか……検討もつかない。
「ブラスト……凍結状態だがまだ生きてる」
何処からか声が聞こえたかと思ったら、ピンク色の髪の女性が現れた。
彼女は確か——。
「君も……まだ生きてるね。救護班、直ちに私の地点に急行せよ。」
「よく頑張った、後は任せて。」
そうだ。思い出した。彼女の名はユウカ・ギレンホール。
異獣討伐組織、レギオン㐧一分隊長————。
“皆殺のユウカ”とも呼ばれ異常なスピードで戦う異獣ハンターだ。
でもなぜ……? シナリオじゃあユウカは来ない。学園虐殺事件で生き残ったメンバーがレギオンに志願し……俺たちは異獣ハンターになった筈だ。
どういう事だ……?
腑に落ちない疑問を抱きながら、俺は意識を手放した。
————————
「所謂“知らない天井”、か。」
まっさらで清潔な部屋で俺は寝かされていた。
どうやら“二回目の死”は回避できたようだ。我ながら天晴れ。
自画自賛していると、病室のドアが開いた。ユウカ分隊長だ。
「具合はどうかな、向井将徒くん。」
「……先程はありがとうございます。あのままだと、死んでました。」
「じゃあ無防備に異獣に、それもブラストなんかに近づかない事だ。」
「はい、すいません……。」
「そういえば、ここは……。」
「レギオンの中央医療センターだよ。君は二日間ほど眠っていたんだ。」
「しかしすごい生命力だ。あんな熱傷を受けてもう喋れるのだから。」
「——いや、それ以上に凄いのは……真力を自力で解放した事、かな」
「……そんなに凄いんですか。」
取り敢えず俺はすっとぼけて答えてみる。
「凄いどころじゃあない。ほぼ死にかけの状態から覚醒できたんだから」
ユウカは笑いながら答えた。笑った顔が可愛かったと思うのは、それほど怪我がマシになった証拠なのだろうか?
「それより——ブラストは。」
しかしそんな呑気なことを考えていられない。俺は奴についてユウカに訊いた。
「君が凍らせてくれたおかげで、今はレギオンの研究施設に無力化して保管されてるよ。まあ、私が殺してもよかったんだけどね。」
彼女は笑いながら言ってはいたが、その目は笑っていない。むしろ殺意が滲み出ていた。
無理は無いだろう。彼女も異獣の被害者なのだ。
「ところで、君に一つ提案があるんだけど、いいかな」
「……はい? なんでしょうか?」
「君、レギオンに入らないかい?」
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