㐧三話 侵襲、そして邂逅

さて、ざっと初期パーティーのメンツを紹介したが、実は俺たちは普通の高校生である。


“今現在“の時系列は本編開始前。まだ俺たちは異獣なんてものも知らずに学園生活を謳歌しているのだ。


俺の推測では本編が始まる数日前。早くとも数週間前と考えている。

もっと前から転生して鍛錬を積みたかったが——転生も甘くはいかないのであろう。


だが期間は短くても鍛練は鍛錬だ。そんなことを考えていると———


ガシャアアアアアアアアアアン!!!!というガラスが割られるような音が、

至る所から聞こえてきた。


まさか、もう————!?

ともすれば……やばい、やばすぎる。


なぜやばいのか。それは、「エビリティ・ギーツ」の本編は———



主人公達の通う高校での、異獣による大量虐殺と共に始まるからだ。



「なに!? 爆発した!?」「なんだよ、何が起こったんだよ!?」


生徒や教員の怒号と建物が壊れる音。そしてそれに紛れる、異獣の舌なめずり。


平穏だった学舎が、一瞬にして地獄に変わる瞬間だった。


「燈摩、悠亜、華帆、逃げるぞ!」


あまりの出来事に呆然としていた三人に怒鳴りながら、俺は周囲の状況を確認する。


爆破の能力を持つ異獣———ブラスト。奴は今敵う相手じゃあない。

クラスメイトの仇として、中盤での大ボスなのだ。


それに俺たちはまだ真力のリミッターを解除していない。完全なる、非力……!


「おい、どうしたんだよ将徒! 何があったんだよ!」


「うるせえ! いいか、ここから逃げるぞ!」


ゲームならご都合主義で生き残るが……ここはゲームじゃない。

とにかく、全力で逃げるしかない!


少し遠くから3本の角を持ち赤い体色をした獣、ブラストの咆哮が聞こえる。

その数秒後、肉が裂けるような音と飛沫と悲鳴が響きはじめた。


「ねえ、なに?!何が起こってるの??!!」


悠亜が必死の形相で叫ぶ。ゲームじゃ見たこともない顔だ。


そんな必死の叫びを無視しながら、俺たちは必死に逃げ続けた。


ブラストはパワーと同時に異常なまでのスピード。そして広範囲の爆破能力を持っている。



「いつまで逃げ続ければいいんだ!?」

華帆の怒号が後ろから聞こえる。ゲームのシナリオ通りなら——異獣特設部隊により一応ブラストを退ける筈だ。


とにかく部隊の本拠地がどこかにあるはずだが———それはゲームをプレイしたからこそ知り得る情報、信じてもらえるはずがない。とにかく黙って探し出すしか……え?


「なんだよ。あの化け物……。」


燈摩の気の抜けた声と対照的に、は勇ましく、悍ましかった。



「————嘘だろ。」


奴の胴体の体色が紅く光り出す。ああ、終わりだ。このままだと、ツノから火球が出て爆破される。この距離なら遺体も残らない。

いくらゲームじゃないからって、こんなのアリかよ……!


いや、諦めるな、俺……! 何か、何か出来ることを……!


「ヤメロオオオオオオオオオオッッッ!!!」


さっきまでとは反対に、俺はブラストに走り出した。


どうせ死ぬぐらいなら、せめて、こいつを……一発ぶん殴ってやる!


近づくにつれ強烈な熱さが俺を襲う、皮膚がチリジリと焼ける。熱さを通り越して痛みしかない。


「…っ!ガアアアアアアアッ!!」


でも、このまま哀れに、死ぬ訳にいくか…!!


火球が炸裂する寸前、俺は全身全霊をかけ奴に渾身のパンチを、拳をぶつけた。


関節も、骨も、皮膚も指も焼けるように痛い。それでも俺は体に、拳に力を込め続け——。


体の中で何か、外れる音がした。

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