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「……ところで昨日、写真を撮りませんでしたか?」


「え? 写真……ですか? 撮ってませんけど。私、SNSもやっていませんし、最近は全く、写真は撮ってないですけど?」


 どうしてそんなことを訊くのだろう。もともと、私は写真に写るのも苦手だし、撮るのも得意ではない。人のSNS等も見たくないから、スマホを触る時間もほとんどなかった。それにしても、昨日に限定して訊くのはなんなのか。


「そうですか。それならいいですけど、もし昨日、撮っていたなら全部消してください。それと……あなたは今後も、なるべく写真は撮らない方がいいですよ」


 まっすぐこちらを見据える男の目は怪しく光る。


「どうしてですか? 写真を撮るのは別に、私の勝手じゃないですか?」


「だってあなた、地球の端が縫われているのを知っているでしょう? それと、エネルギーにはじかれて音が鳴っていることも。知り過ぎるのはよくありません」


 なんだって? やっと忘れかけていたのに。


「誰が端を縫ったと思います? 地球の北と南に、それぞれあいた穴は繋がっていますが、何が出入りしているのか。全てがエネルギーだとして、エネルギーはどこからきているのか……」


「や、やめてください! 私は何も知りませんし、そんなこと、考えたことはありません!」


 この男は一体、何をしに来たのか。本当に互助会の人なのか。


 どうして修睦と話した内容を知っているのだろう。


「どうして修睦と話した内容を、知っているかって?」


「えっ!?」


 男は初めて声を上げて笑った。この男は私の頭の中を覗いているのか……


 私のおでこに冷や汗が噴き出す。


「覚えていませんか? 修睦はあなたに大切な、重要なことを言いましたよ。全ては繋がっていて、あなたは全てに存在していると。そして、時間は進みながら戻る。戻りながら進む。私もあなたも、全てに存在し、繋がっているんです」


 気付いてしまった。私を妙に不安にさせるこの男は、ほとんど動いていないというか、ピクリともしない。座ったら座ったまま、微動だにしないのだ。話す口元はかすかに動くが、声の大きさや滑舌に対して、その動きは小さすぎる。


 変だ。この男は人間じゃない。


「き、聞きましたけど。確かに、そんな話は聞きましたけど、だから、なんなんですか?」


 自分で声が震えているのがわかる。


「あなた最近、記憶が曖昧になったり、同じ日、同じ時刻に、記憶が二つ三つ重なっていることがあるでしょう? それが全てに存在しているということ、遍在しているということです」


 小刻みに震えて、ずっと我慢していた私の両目から、ついに涙は湧き出てしまった。


 自分自身でおかしいと、ずっとずっとずっと感じていた。


「ど、どうして……でも、昔はそんなこと無かった! その時その時で、記憶はちゃんと一つだったんですよ? 他の人もみんな、普通はそうですよね? どうして今の私は、記憶が重なってしまうの!?」


 頭が変になってしまった、狂ってしまったと、常に感じていた。


 それでも、そういう病院にはもう、行きたくはなかった。


 行ったところで適当に薬をもらうだけだし、行った帰りの方が気持ちは深く沈んだから。


 だから……本当に行き詰ってしまったら、どこかの山へ行って消えようと本気で考えたのだ。個人の所有するような山でなく、迷惑をかけない奥深い所へ……


 そうではあったけど、まさか山に行くべき時が、こんなに迫っていたなんて。

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