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 おじいちゃんは思い出の中の小柄なおじいちゃんよりさらに小さくなっていて、思い出の中の大柄なおばあちゃんも、やっぱり小さくなっていた。


 居場所なく、テーブルの横でただ突っ立って、母も私もなんとはなしに黙っている。おばあちゃんの歯が痛いとごねる声と伯母のなだめる声だけがしているようだった。


 おじいちゃんとおばあちゃんの食事が終わると、伯母は二人がベッドに入り横になるのを手伝って、寝かしつけた。


「しーちゃん、じじもばばも寝たから買い物に行きたいんだけど、一緒に行ってくれる?」


 一段落して、伯母はふぅと息を吐く。


「一緒にって、じじとばばを残して大丈夫なの? もし起きたり、何かあったら」


 母は目を丸くしている。確かに、伯母が買い物へ行くときは基本的に、二人をデイサービス等で預かってもらっている時だと、いつだったかの電話の内容で聞いた覚えがある。


「大丈夫よ、今日はみーちゃんも来てくれたから。みーちゃんが留守番してくれてる間に、さっと行けば大丈夫。今寝たところだから、すぐ行けば。もし万が一、何かあったら電話して。すぐそこのスーパーに行くだけだから」


「えっ!? 私が留守番!? 大丈夫かな……」


 意外だった。眠っているとはいえ、おじいちゃんとおばあちゃんと私の三人で残されるなんて、不安だ。不安しかない。何かあっても責任なんて取れないよ。


「そんな、実理を残すなんて……」


「電話してくれれば走って帰ってくるから。二人ともお昼食べてないでしょう? さっと行って二十分くらいで帰ってくるから」


 スーパーは近いかもしれない。でも、買い物をして二十分はさすがに無理だと思う。


「さっ、早く早く。早くしないと起きちゃうから」


 伯母は半ば強引に母の手を引いて行く。


「ごめんね、実理。何か食べるもの、買ってくるから」


 母が小さく言い終えるのとほぼ同時に、玄関のドアは閉まった。


 私とおじいちゃん、おばあちゃんの三人は取り残されてしまった。




 三人だけの居間は静かだ。クーラーの風の中に、おじいちゃんとおばあちゃんの寝息が混ざったのと、テーブルの上に置かれた目覚まし時計がコチコチと針を進める音だけしている。


 テレビはそこにあるけど、つけるのも騒がしくてよくないだろうし、なんとなくスマホなどもいじる気になれない。


 私はテーブルの椅子に腰かけ、窓の外を眺めるしかなかった。


 おじいちゃんもおばあちゃんもいい人かどうかは判然としないが、それでも一生懸命に生きてきたはずで、ちゃんと生きてきてもどんな人でも最後は年をとって小さくなってしまうんだな……伯母がお世話してくれているとはいえ、なんだかんだ最後まで自宅に住んでいられるというのは本当にすごい……無職の私が間違って長生きしてしまったら、どうなるんだろう。というより、いつ死んでも迷惑だろうし、いや、変に病気なんかしたら目も当てられないだろう……友人もお金も無いし、誰も私のことなんか世話してくれないよ。どうしたものか……やっぱり、もう限界だと感じたらいつでもすぐ身を隠せるように、どこかの山を探しておかないと。前にも死にたくなったとき、深い山中のどこかで首を吊るというのを考えたことがあったけど、最後は山に隠れてひっそり……




 ドンドンドン……子沢さーん、ご在宅ですかー、ドンドンドン……




 不意打ちにはっとする。何者かが玄関ドアを激しく叩いてくるではないか。


 出るか迷うが、こんなに騒がれてはせっかく眠っている二人が起きてしまう。慌てふためく私はドアを開けた。

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