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熱く脈打つトンネルに、私は一歩ずつ踏み出した。
同じ空間があまりにも続くので、同じ所をぐるぐる回っているのかと感じ始めたとき、不意に右手に分かれ道、新たな細いトンネルが現れた。
そちらへ行くべきか、それともまっすぐ行くかと立ち止まる。すると、細いトンネルの入り口に何か貼ってあるので、目を凝らした。
「ん? あっ!!」
それは910号室と書かれたプレートだった。白いプラスチックの板は赤黒い肉壁には不釣り合いで、おかげで見逃さずにすんだ。
思い切って、一歩入ってみる。
「いらっしゃい、実理さん……」
遠くに白いベッドが見えた。そのベッドの上で、子沢修睦は半身を起こした。やはり、脈打つ赤黒い空間に白いベッドは違和感しかない。
私は彼のベッドの脇まで走った。
「おっ、修睦さん!! 大丈夫ですか!?」
彼は両穴から鼻血を垂れ流していた。それに、前よりも頬はこけ落ち、具合はかなり悪そうだ。
「大丈夫……ただ少し変わってしまった現実が、もう留め置けなくてね。現実に還るだけだ」
「現実に還る? 現実に還るって? それで、なんでそんなに具合が悪くなるんですか」
ベッドの脇で私は叫んだ。彼は今にも死んでしまいそうに見える。こんな状況で適当なことは言わないでほしい。
「知香はすでに消えた。消滅だ。彼女は薄くもろい。僕の頭の中から生まれた存在だからね。僕も君、実理さんからしたら、だいぶ薄くてもろいんだ。君のおじいさんの頭の中から生まれた存在だから……そして、僕も消滅する。もうエネルギーが無いんだよ」
ふふっと力なく笑って、彼は手の甲で鼻血をぬぐい、続ける。
「これは血じゃないんだ。僕の頭の中、ぽっかり空いたところに咲き乱れる真紅の花弁だ。僕の中の唯一、純粋で美しい部分……それさえも消えて無くなってしまうのは正直……寂しいけれど、これは実理さんにだけ話す本音だから、他言しないでくれよ」
「他言もなにも、私だってこんなこと、話せる人なんていないですよ」
「それもそうか」
彼は楽しそうに笑った。
「ところで、君は最近“壺中の天”という言葉を覚えただろう?」
「壺中の天……どうして、それを……」
ユリちゃんと石田君を思い出す。壺中の天地、きっと石田君がいる所。
「頭の中は宇宙であり、宇宙は全て繋がっている。そしてエネルギーも全てであって、密接に繋がっている。全てに内側も外側も無いんだよ。それで、君はどう思っているんだい?」
「それでって? えっ?」
何を言っているのか。頭がパンクしそうに痛くなってくる。
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