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呼ばれるようにふらふらと公園に入ってしまった。奥へと歩き、トイレへ近づく。
「このトイレ、これは……古山公園のトイレじゃ……」
すっかり忘れていた記憶がよみがえる。それは、小学校四年生くらいまでほぼ毎日遊んでいた、古山公園のトイレだった。
まず、臭いでわかる。古山公園のトイレは汲み取り式のトイレ、通称ボットン便所と呼ばれるものだった。暗く古いトイレで、和式の便器には大きな穴があいていて、底があるのか無いのか見当もつかない闇は続いている。
その穴には糞尿が溜まっており、臭いと闇が怖かった。当時は子供で体は小さかったから、あの穴にお尻を向けてしゃがむというのは本当に恐怖でしかなく、もし落ちようものなら二度とこちらの世界には戻ってこられないのだと心底信じていた。
実際、他の子供たちと共に肝試し気分でのぞいてみれば、人の頭のようなものが落ちていたことがある。今思えば、たぶん誰かがボールを落としたのだろうけど。
しかし、ここは古山公園ではない。古山公園はここからもっと遠くにあるはずで、それに、あのボットン便所をのぞいていたのはもう二十年以上も前のことだ。当時でもかなり古いトイレだったから、たとえ古山公園であったとしても、あのトイレは無くなっているだろう。
まして、こんなに新しい公園に旧式のトイレがあるはずない。
だけど……明らかに古く汚い外観と、中に入る前から漏れ出る糞尿のもわっとこもる臭いは、完全に当時と同じだ。
このまま中に入っていいことは絶対ない。ふり返り、入ってきた公園の入り口を見た。
さっきの黒い目の子供が入り口の真ん中に立って、こちらをじっとり監視している。また目が合って、彼は黒い歯をニイッと出した。これでは帰るにも帰れない……
再びトイレと向き合う。少年はトイレで子沢のおじいちゃんが待っていると言った。やはり、私はこのトイレに入らなければならないのだろう。
眉間に力の入りすぎる私は、女子トイレに入った。外に漏れ出ていた臭いはさらに強く増す。明かりもない暗くじめっとした狭い空間には、個室が二つあった。
そういえば、おじいちゃんは男子トイレの方にいるのかもしれない。今さら思ってもそちらへ行く気にもなれないので、とりあえず、このまま女子トイレを探してみる。
二つの個室のうち、手前の個室のドアは全開だった。和式の便器は左を向いている。やっぱり、しゃがんでちょうどお尻のくる所に大きな穴はあいていた。だが、今見ると昔ほど穴は大きく感じられない。
それでも、のぞき込む勇気はなく、個室に一歩入ったところでチラッと一瞥して、私はドアの外へ出る。
隣の、もう一つの個室のドアは隙間程度に細く開いていた。そっと押してみる。ギィッと音がして、壁でない、人にあたるような柔らかい感触があった。
開き切っていないドアの隙間からのぞいて、私はあっと小さく声を上げる。
そこには和式便器をまたいでしゃがみ込んでいる、老人の姿があった。
浴衣を着た小さな背中は前後にゆらゆらしていて、ドアを開けたのに何の反応もなく、下を向いたままだ。
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