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こういう時、なんと声をかけても母の心をざわつかせてしまいそうで、いつも私は黙ることしかできないでいる。
ターラーラーラー……チャラチャララーラー……!!
なぜか、三十分おきに祖母から電話がかかってくるようになった。
電話が鳴って、番号を確認すれば祖母の家の番号なので母はあえて無視する。そうすると、我が家の電話は留守電になる。
“ただいま留守にしております。ピーッと鳴ったら御用件をお話しください”
ピーッ……
“みーちゃん? お話しましょう……”
そして、母は少しだけ受話器を浮かして、カチャッと置く。
それはねちっこい独特なしゃべり方で、遠い記憶の中に聞き覚えのあるものだった。祖母の声で間違いなさそう。
これが四回あって、さすがに母も伯母の仕業ではないと思ったらしい。
夕食の豚汁に使うジャガイモを切りながら、母は力なく息を吐く。
「こんなこと初めてだけど、何かおかしいね……次にかかってきたら出てみようか」
「でも、みーちゃんって私を呼んでいるし、いいよ。次のときは私が出る」
テーブルで緑茶を飲む私は、平静を装った。
ターラーラーラー……チャラチャララーラー……!!
電話番号を確かめる。やっぱり祖母の家の番号だ。思い切って受話器を取り、耳にあてる。
「もしもし? みーちゃん?」
今までの留守電と同じ、ねちっこい祖母の声だ。
「はい、実理です。お、おばあちゃん……どうしたの?」
「あのね、じじがみーちゃんに、オサム君の話をしなさいってね、言うの。オサム君、じじの幼なじみで、とっても仲良しなんだって。オサム君は優秀で、研究者になったけど、腫瘍ができて死んだのよ」
祖母はゆっくりゆっくり、一方的に話をする。私が言葉を挟む余地はない。
「じじはね、オサム君に、とってもあこがれているの。じゃぁ、ばばは伝えました。さようなら」
ブツッと唐突に電話は切られた。
「何? なんだって?」
いつの間に、私のすぐ横で耳をそばだてていた母は尋ねる。
「えっと……おじいちゃんにオサム君っていう幼なじみがいて、そのことを私に話しなさいって、おじいちゃんがおばあちゃんに言ったっていう……」
応えながら、今聞いたことを頭の中で整理する。
「オサム君? おじいちゃんの幼なじみで? そんなことは私も初めて聞いたけど……ばばもそんな話、知らないと思うけどねぇ。だって、二人は出身地も違うし、お互いの小さな頃なんて、深く話しあったりするとは思えないし。それに、なんで実理にそんな話を……?」
「さぁ……でもオサム君って、この前、希迫醫院に行ったときの子沢修睦さんもオサムだよね!?」
意外な繋がりに興奮する私をよそに、母は台所へ戻ると鍋を火にかけた。
「あぁ、そんなこともあったわね」
母は妙にあっさりしている。まるで関心がないみたい。
「えっ……ほら、なんかすごくない? どっちもオサムなんだよ?」
「はっ? なんのことだっけ? なんの話?」
驚いた。私が希迫醫院へ行ったことや、子沢修睦の名前が祖父の書類に載っていたこと、変な速達が届いたことも……
母は急に忘れてしまったのか、全然記憶にないという。
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