15 頁
「だから、僕個人の力で大きく現実を変え、留め置くことはできないんだよ。ただ、この仕組みを知ったから、少しだけ変えることができたんだ」
「……あの、私がこの病院へ来たのは、修睦さんが現実を少し変えたから、ということですか? だとしたら、どうしてそんなことを?」
今は現実ではないのだろうか。今が現実でないのなら、今は何? 私をここへ来させて何があるっていうの?
「うーん……これは、僕自身の意思のようで、違う力も働いている気がするんだ。もしかしたら、ただ君とおしゃべりしたかっただけなのかもしれないし……つまり、どうしてなのか僕にもわからない」
「なんですか、それ……」
長々とオチのない話を聞かされたのか。拍子抜けする私はフフッと肩で笑った。つられたように彼も小さく笑う。
「ついでに言うとね、地球はもともと平面だったんだよ」
「あっ、それなら聞いたことある……確か、歴史の教科書で見たような。海の端、果てまで行ったら落っこちる感じの、ですよね? 今でもその説を支持する人がけっこう多いっていう」
地球平面説、やっと少しでも知っている話題だろうか。
「下敷きを思い出してみて。ほら、あのノートの下に敷く、プラスチックの板。あれを無理やりキュッキュに丸めて両端を縫うんだ。今の地球はそうやって筒状になっている。
だけど、さっきのオルゴールの話とは無関係だよ。オルゴールが例の話はまた別次元の話であって、今の地球が筒状っていうのは、あくまで僕らの現実レベル、物質の次元でキュッキュの筒状になっているということだ」
「へっ? 今現在の地球は平面だったものを縫い合わせて、球体ではなく筒になっている? 誰か縫ったんですか?」
全然知らない話だった。クラクラするタイプの頭痛は始まり、私の眉間に力が入る。
「そう! 何者かが地球を縫い合わせてしまったんだ! そのために、地球の上と下は円く穴があいている。北極や南極に大きく穴があいていても、誰も気付かないだろう?
実際にそこへ行っている人らが口外しなければ、現地を見たことない人々は一生知り得ないし、まして穴のことなんて、意識することさえできないだろう。だから、地球は球体だってことにされてしまえば、大概の人は気付けない。地球は球体だと信じる他はないんだよ」
「へぇ……球体が前提とされてしまえば、まぁ……それまで、ですもんね」
この男は、実際に北極や南極まで行って穴を見たことはあるのだろうか。平面と球体だったら、どっちがいいのだろう……今の私にとっては、もはやどっちでもいいような気がするけど。
「フフフ、はあーあっ……今日はこのくらいにしよう。また縁があれば会えるからね」
彼は満足げに大きく伸びをした。
「そうですね……えっ、もうこんな時間!? どうも、おじゃましました!」
腕時計は夕方の四時を指していた。ずっと外は曇っていたので、日の傾きもわからなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます