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「そう、でも安心して。変えてしまった現実はすぐに元に戻るから。みんなの中に宇宙はある。僕個人では大きく、しかも長い時間、現実を変えて留め置くことはできないんだよ」
「そう、ですか……」
「僕は大きな腫瘍ができて、それを除く手術をしてぽっかり穴が空くまでは、宇宙のこともエネルギーのことも何も知らなかった。いや、意識したこと、感じたことさえ無かった。けれど、今ではわかる。それらの使い方や、地球がどうやって成り立っているのかも」
「地球がどうやって成り立っているか……」
私が繰り返したので、彼は満足したようだ。まっすぐ私を見つめ、大きく頷いて続ける。
「うん。まず、人間はそれぞれ音を出しているんだよ。高い音、低い音、強い音、弱い音……それは背の高さ、体重、年齢、性別、性格など計り知れない膨大な条件で、出している音が変わるんだ。
世の中の、今この瞬間に同じ音を出している人は一人もいない。ただ、小さく弱々しい音だから年を取っているとか、子供だからとか、そんな簡単な法則では決してないよ。僕にも全てはわからない」
「それは人間に限ったことなんですか?」
なんでこんなことを尋ねたのか、私自身にもよくわからない。言葉は口を突いて出てしまった。
「いい質問だ! 音は生きとし生けるもの全てから出ている! それだけじゃなく、石ころやビルのような建物、そこにある食器なんかからも、目に見えるものはとにかく全部、確実に音は出ている!
僕はつい最近になって、いい例えを思いついたんだ。オルゴールだよ。人間はオルゴールでいうところの円筒に植えられたピンなんだよ」
「ピン?」
こうして、私は彼から地球がどうやって成り立っているのかという持論を延々と聞かされる。
この地球上に存在する物質は全て、一つ一つオリジナルな音を出し続けている。それはオルゴールに例えることができる。
まず、地球はオルゴールでいうところの円筒になり、人間など(全ての物質)はそこに植えられたピンである。
そして、オルゴールの櫛のようにある金属板、櫛歯がエネルギーである。
オルゴールは、円筒に植えられたピンが櫛歯にはじかれることで音を出している。
地球に植えられた人間など(全ての物質)はエネルギーにはじかれることで音を出している。
こうして、地球は回り続け、音を出し続けているが、一周回れば曲は最初に戻る。地球はずっと同じ曲を奏で続けているのだ。
時間は進みながら戻る。人間が出現する前、出現してから、そして消滅してから……ずっと奏でられて一周すると、また人間は出現し、消滅する。
同じ時代、同じ歴史、同じ文明、同じ人間が同じ時間、同じ場所に生まれ、一言一句同じ言葉を発し、同じ生活をし、そして死ぬ。
それだけを、永遠に繰り返しているのだ。
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