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「頭の中から知香さんが生まれたって、どういうことですか?」


「そのままだよ。僕の頭の中にはぽっかり穴が空いていて、そこには彼岸花のような細く赤い花弁が咲き乱れている。その中から彼女は生まれてきた。僕は彼女の母親だよ。だから、僕は彼女に知香と名付けたんだ」


 修睦は意味がありそうで内容のつかめない話をする、という知香の言葉を思い出した。しばらく彼の話に合わせてみようか。


「じゃぁ、知香さんは今どこに? もしかして、修睦さんの頭の中ですか?」


「うん、おそらくそうだね。僕の頭の中は宇宙と同じだから。広くて僕自身にも未知数だよ。把握するなんて、とてもできない。もちろん、実理さんの頭の中だって宇宙そのものなんだ」


「私の頭の中も宇宙? ちょっと座りますね」


 そこに丸椅子があったので、私は腰かけた。ベッドの上にいる彼の顔は思っていたよりすぐ目の前で、息をするのにも考えてしまう。鈍く怪しい光をたたえたその瞳にじっとり見すえられ、私はまるで今から教えを授けられるようだ。


「君は理解力があるよ。宇宙は繋がっている。内側も外側もない。エネルギーは密接に繋がっているんだよ」


 あの便箋に書かれていたことだろうか。


「宇宙が繋がっているのなら、それは……私の頭の中と修睦さんの頭の中も繋がっている、ということになりますか?」


 この手のオカルトチックな話は嫌いではなかった。ちょっと興味はある。


「そうだよ! その通りだよ!! だから、知香もいろんな人の脳内、宇宙を渡り歩いているんだ!」


 興奮したように彼の目は見開き、声は大きくなった。だが、その視線は、はるか遠くのどこかへ行ってしまったようだ。彼には一体、何が見えているのだろう。


「……ところで、私のおじいちゃんを知っていますか? それと、私の母や伯母のことも」


 オカルト話は興味深いが、深入りすれば危険だろう。そんなことより、私には今日ここへ来た目的があったのだ。


 話の腰を折ってしまったからか、彼の反応は冷たい。一転して私を鋭く一瞥すると、大げさにため息をついた。


「君は僕の話をちゃんと聞いていたのか? そんなつまらないことを訊くなんて」


「つ、つまらないこと……」


 どちらかといえば、頭は宇宙で繋がっているという方がつまらないというか、どうでもいい話のはずであって、私の身において、おじいちゃんを知っているかどうかの方が重要事項なんだけど。


「まぁ、いいだろう。君のおじいさんがこの病院に入院してきたのは運命というか、宿命のようなものなんだ。


 僕はおじいさんの頭の中、宇宙から生まれてきた。知香が僕の宇宙から生まれてきたようにね。そして、実理さんという存在に繋がったんだよ。そうして、君はこの病院、希迫醫院へやってきた。現実を少し変えて」


「おじいちゃんの頭の中から生まれる? 現実を少し変えて?」


 反芻したところでさっぱりわからない。

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