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涙があふれ出そうになるが、ふっと思い出す。バッグの中に、あれが入っていたことを。
「そ、そうだ! それじゃ、これは招待状ですね!?」
バッグの中を探って、半ばやけっぱちになる私は白い封筒を取り出した。
「これ、おじいちゃんのじゃないけど、子沢修睦さんから家に届いた手紙です。速達で、ついこの前、一昨日に」
震える手を悟られないように慌てて動かしながら、中の便箋を引っ張り出すと、看護師の前に広げた。
だが、やっぱり看護師は怪しんでいる。汚いものでも見るように、眉間に深くしわを寄せる。
「えぇ、これは……」
「間違いないわ。修睦さんの字よ」
看護師の低い声を遮り、私の耳をすぐかすめるようにして、爽やかに通る女性の声は言った。
いつの間にか横にいる彼女の気配に全く気付けなかった私は、はっと息をのみ込んだまま固まり、また言葉を遮られた看護師も、まるでお化けを見たかのように目を見開いて固まっている。
「これは修睦さんが出したものね。私、カードキーを持ってるの。修睦さんのところまで私が案内してあげる。一緒に行きましょう」
ノースリーブの白いサマーニットにひざが隠れるくらいの上品なベージュ色のスカート、高すぎないお洒落なヒール……背が高くスラッとした彼女は、私と同じくらいの年頃だろうか。
背が低く、ジーパンにTシャツ、スニーカーを履いて適当に髪をくくっている私は、一瞬で歩んできた人生の違いを悟り、そして恥ずかしくなった。
また、こんなに美しい人が、田舎のなんとも暗いこの病院にいることが似つかわしくなく不思議で、彼女がエレベーターまで歩いてボタンを押す後ろ姿に、私はすっかり見とれていた。
「どうしたの? 早く、行きましょう」
「へっ? あっ、はい!」
言われて、小走りで彼女の元へ行き、私は隣に立つ。
看護師はかかわりたくないのか、すでにカウンターの椅子に座り下を向いているようで、その鼻から上の顔はもう見えない。
彼女がするように私も上を見上げていると、エレベーターは下りてきた。ドアが開き、彼女は私を先に入れてくれ、そして、ボタンの一番下の所へカードキーをかざす。ピッと音がして、彼女は九階のボタンを押した。ドアが閉まる。
「この病院、なんか暗くて嫌よね。それなのに高級な個室があるんだから、本当に変わってる」
ねぇ、と彼女はこちらをふり向いた。きれいな茶色の長い髪から、ふわっとシャンプーのいい香りがする。こちらを見つめる艶っぽい大きな瞳に、私は照れたような恥ずかしい気持ちになって、つい目をそらした。
「ほ、本当に……あの、さっきは、ありがとうございました。私、どうしていいかわからなくて、助かりました」
「そんな、いいのよ。あなたは正しかったんだから。あっ、私ね、
知香が女神のようにまぶしく微笑むと同時に、エレベーターは九階に着いた。再び知香は持っているカードキーをかざすと、ピッと鳴り、ドアは開いた。
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