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中には封筒のサイズぴったりに、三つ折りにされた紙が一枚だけ入っていた。親指と人差し指でつまむようにして引っ張り出し、広げる。
「えっ……?」
その内容に、私たちは固まった。
私には力があります。あなたには力があります。
肉体、物質、精神、魂の全てはエネルギーなのです。
エネルギーは密接であります。内側も外側もありません。
片手で紙を持ち、あごを触りながら私は興味深く推理する。
「これ、どういう意味だろう? 何かの宗教の教えとか?」
「さぁ……気味が悪いねぇ」
はあぁ、と母は大きくため息をついた。
味気ない縦書きの便箋には黒のボールペンでこの文言と、そして最後に子沢修睦という名前、住所が記されていた。
「あれっ? この住所って病院の……? この人、入院してるのかな? 部屋番号まで書いてあるけど」
その住所の最後は、希迫醫院910号室となっている。
「希迫醫院って、そこ、最近おじいちゃんが入院してるところよ! でも、どうして……おじいちゃんがその人と、知り合いにでもなったっていうの? おじいちゃんの認知症はずいぶん進んでいるし、もともとの内向的な性格もあって、誰とも話さないと思うけど……」
確かに、私の知る祖父は寡黙な人だった。かと言って、いつも機嫌が悪いとか、むすっとしているとか頑固で厳しいとか、決してそんな人ではない。
むしろ優しげで、ニコニコしているお人よし、という感じ。幼い頃の私から見ても、おじいちゃんはどこか我慢しているように静かで、そして、とても小柄で線が細かった。それと、お酒と飼い犬が大好きで……
今から思えば、おじいちゃんは焼酎とワンコにだけ、心を許していたのかもしれない。おしゃべりで体だけでなく、声と態度の大きすぎる祖母とはちょうど、対照的だった。
ただ、離れた県外に住んでいたことと、母と祖父母の関係はやはりよくなかったので、私は二人とほとんど接したことはなかった。最後にちらっと会ったのも、十数年前に挨拶をしたかしなかったか、くらいのものだ。そういえば、その頃にはすでに、祖父は認知症を患っていたように思う。
「そうだよね。性格もだけど、今回の入院は脳梗塞で、かなり体調が悪いからなんでしょ? それに入院って、ここ一週間くらいだよね? そんな急に、誰かと親密になるなんて思えないよ。なったところで、そんな正確に個人的な情報を、おじいちゃんの口から聞き出すことだって、出来ないだろうし」
いくら考えても、さっぱりわからない。疲れた私は、持っていた便箋をテーブルの上に投げた。
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