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「おじいちゃんたち、何かあったの?」


 そういうわけで、伯母が祖父母の家へまめに通ってくれていたのだが、数日前、急に体調を崩した祖父は入院していた。


 しかし、二人の電話の感じからは、最悪の事態であるようには思われない。


「それがさ、後期高齢者の保険料がいくらか返ってくるとかの書類で、その書類自体はたいした内容のものではないらしいんだけど。


 そこにね、おじいちゃんが亡くなった後の、とりあえず諸々を相続する人みたいな感じで、今現在おじいちゃんのことについて連絡をとれる人の名前が書いてあるんだけど、それが、全然知らない人の名前になってるって」


 素麺のザルを挟んで、また向かいに座った母は両腕をさすっている。


「えっ、何それ? 本当なら、おじいちゃんの世話をしている、おばちゃんの名前が書いてあるはずってこと?」


「そうそう。そのはずなんだけど、子沢こざわおさって書いてあるって。私たちの旧姓もおじいちゃんの名字も、確かに同じ子沢ではあるけど……おばちゃんが市役所に電話して聞いてみるって」


「まさか、母さんとおばちゃんの他に知らない兄弟がいたりして……なんてね、何かの間違いだよ! きっと」


 冗談めかして言ったが、あながちない話でもない、とも思う。


 九十をとっくに過ぎた祖父は、祖母が最初の結婚相手ではなかった。ただ、前の結婚で子供はいないはずであって、祖父の子供は母と伯母だけだ。


「そうだよね」


 ぽつりと応えて、母はテレビのワイドショーに顔を向けた。


 私も黙って麺をすする。




 ピンポーン、ピンポーン……




 インターホンが鳴った。大きくはない画面に母は応じると、急いで玄関へ向かう。


「速達だって」


 郵便を受け取り戻ってきた母は、その白い封筒をいぶかしげに見やり、テーブルに置いた。


「速達?」


 母が老眼鏡をかけようとしている間に、私はちゃっかりテーブルの上にあるそれを手に取ると、差出人を確認する。意外な名前に息をのんだ。


「か、母さん、この人……さっきの、じゃない?」


「何、さっきのって? あっ、えぇ!?」


 眼鏡をかけた母も、その名前を見て言葉を失った。


 封筒の裏、左側に子沢修睦と達筆な文字で書かれていた。そして、表の宛名は旧姓でなく、現在の母の名前、立山静江様となっている。


「嘘でしょ!? この人、どうしてうちの住所まで知ってるの!?」


 興奮する私は叫んだ。


「そんなの、私だって知らないわよ! とりあえず、おばちゃんに電話してみるから」


 言いながら固定電話の前に行き、母は伯母の携帯電話にかける。ところが、忙しいのか出なかったらしい。すぐに戻ってきた。その間、はさみを準備していた私は尋ねる。


「開けて、みる?」


「う、うん……そうね。開けてみないとわからないし」


 私は、白い封筒の上部ギリギリのところを慎重に、できるだけ真っすぐに切った。すっぱりと切り口が開く。

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