11話 回答者と管理者。そして転生者
謎の体調不良から復帰したと思えば、またもやめまい。
今度も倒れるのかと思っていると、事態は思わぬ方へと進んでいった。
「か、管理者ってなんだよ……? しかも、会話権限……? このテキストも何なんだ……?」
誰もいない図書室で一人動揺するしかない俺。
が、その疑問はすぐに解消されることになる。
応答するように、文字テキストと一緒に謎の音声が俺の耳へ届いたのだ。
『回答します。管理者とは、この世界のコントロールを行っている者です。会話権限を与えたとは、入谷将吾がこの世界で生きて抜いていく上で、必要最低限の情報を管理者から受け取るための手段です。表示されているテキストは、入谷将吾以外の存在からは見えません。課題表示、目標達成、その他もろもろの情報を表すために作られています。また、管理者からのメッセージや、通達も受け取ることが可能です』
「……は……!?」
あまりにも唐突に、そつがなくつらつらと述べられてしまった。
俺は大きな疑問符を頭上に浮かべる。
「ちょ、ちょっと待て! 色々ツッコミどころ満載な気がするぞ! 質問に答えてくれるなら答えてくれるって先に言えよ! あと、もう少し順を追って詳しくわかりやすく教えてくれ! 今のじゃいきなり過ぎて困惑の方が勝っちまうだろが!」
誰かが来たらどうしようとか、そんなこと一切考えず、藁にも縋る思いで叫ぶ俺。
すると、またしてもテキストと音声が聞こえてきた。
『回答します。色々ツッコミどころ満載とは、理解が追い付きません。質問に答えてくれるなら答えてくれと言ってくれとは、理解が追い付きません。もう少し順を追って詳しくわかりやすく教えてくれとは、理解が追い付きません。今のじゃいきなり過ぎて困惑の方が勝っちまうとは、入谷将吾の知能不足が考えられます』
「うるせぇわ! 知能不足はお前だろが! 回答するとか言って、全部理解追い付いてないし!」
『回答します。入谷将吾の知能不足が考えられます』
「だからうるせぇっての! バカ正直なロボットっぽい音声発しやがって! そんなに管理者、管理者言うなら、その本人を出せよ! お前じゃ話になんねぇよ!」
『回答します。管理者の回答をお求めでしょうか?』
「ああ、そうだよ! 面倒だし、管理者ってのがいるんなら早く変わってくれ! 俺はそいつに腐るほど聞きたいことがある!」
『回答します。理解しました。管理者からの情報授受は一日一回までです。それ以上は応答されません』
「一日一回? 何だその縛り?」
『回答します。本来ならば、この世界の住人は管理者へのアプローチを許されていません。しかし、この世界を一度疑似体験した存在である入谷将吾は、課せられている使命の元、特別に管理者へクエスチョンを送信することができるのです』
「待て待て。課せられてる使命ってなんだ? そんなもの、今初めて聞いたぞ?」
『回答します。それは――』
と、口は悪いものの、答えて欲しいことには案外スルスルと答えてくれる【回答者】が次の俺の質問に答えてくれようとしていた時だ。
唐突に回答者の声にノイズが走り、眼前のテキストも薄くなって消えていく。
「お、おい……? なんだよ? 答えてくれないのか? ちょうどいいところだったのに」
『それに関しては僕が答えよう』
「――え?」
ロボットっぽい声じゃなくなった。
聞こえてきたのは若い男の声。そしてその声が聞こえてきた刹那――
「よっ……と。や、こんにちは」
「おわっ! って、えぇっ!?」
突如として、ブゥゥンという音と共に、声の主であろう男が目の前に姿を現した。
爽やかな印象を受けるイケメンで、メガネをかけていながら、ブレザー制服に身を包んでいる。
が、しかし、奴の醸し出している雰囲気とそのブレザーはどこかアンバランスで、表現するならば、年相応ではないと思わせてくれた。この男は学生のような年齢じゃないと思う。もっと、スーツとかを着てる方がしっくりくる。俺なんかよりもだいぶ大人だ。
「どうも。回答者のマコちゃんから代わりました。管理者の伏来(ふしくる)です。以後お見知りおきを」
伏来と名乗った管理者の男は、颯爽とお辞儀をし、すぐに顔を上げた。
上げた顔に灯っている表情の色は明るい。柔らかく、余裕がある笑顔。しかし、その余裕さは、同時に俺を圧倒的に下に見ているようにも思える。一目見てわかったが、機に食わない。
「入谷将吾……と自己紹介するまでもない気がするな。お前は俺のこと知ってるんだろ? なんとなく、顔を見たらわかる」
「はははっ。すごい観察力ですね。ご名答です、入谷将吾さん……いえ、大峰祐志さん」
「っ……!」
わざとらしくその名で俺を呼ぶ伏来を睨み付ける。すると、奴はふざけた道化のようにオドオドし、顔の前で手を横に振って見せた。表情はまるで反省の色が無い。
「そんなに睨み付けないでくださいよ。こっちの世界でのあなたの名前であることに間違いはないんですから。好きだったでしょ、このゲーム? しかも主人公だ。そんな幸せはないです。うん」
「……」
無言のままに敵意に満ちた目で見つめ続ける俺だが、伏来はそんなのお構いなしに続けた。やはりオドオドと怯えて見せたのは演技だったらしい。
「好きなゲームの世界に来ることができて、あなた的には満足のはずです。あっちの世界で最期を迎えるまでは、あなた、ずっと懸命にこのゲームをやっていたじゃありませんか。ねぇ?」
「……じゃあ、本当にここはゲームの世界、カタオモイアイの世界なんだな?」
「ええ、そうです。ここはR18指定男性向けPCゲーム・カタオモイアイの世界ですよ。ゲームで攻略したヒロインを始め、登場人物たちがリアルにあなたをお出迎えします。それこそ、吐息が感じられるくらいには、しっかりね。ふふふっ」
「夢でもない、と?」
「夢でもありません。あなたは死に、ここへ転生しました。無限ループの中の世界。寝取り、寝取られの渦巻くゲームの中に」
「それは誰の仕業だ? お前か?」
問うと、伏来は微笑んだまま、
「はい。このゲームを終わらせることのできる人物はあなたしかいない。そう思ったがゆえに召喚しました」
「終わらせる……? それはどういうことだ? もし仮に終わらせることができて、俺はそれからどうなるんだよ?」
「それは――」
伏来が言いかけた瞬間だ。
背後の扉がガラッと開かれ、髪の毛の無いハゲた男が現れた。どうやら教師の一人らしい。こんな奴は知らなかった。カタオモイアイの中で出て来てないモブの一人だ。
「おいっ! お前、今は授業中だろ! なんでこんなところにいる! 早く教室へ戻らないか!」
またか……。
大事なところでいつも邪魔が入るのはデフォルトだ。
俺は一言謝り、教室を目指した。
戻っている最中に、また眼前でテキストが流れる。
『話し始めて間もなかったですが、邪魔が入りましたね。続きは放課後にしましょう。家庭科室付近の空き教室にて』
家庭科室付近の空き教室。……どこだよ……。
心の中で愚痴りつつ、足を速める。
そういや、絵空ちゃんのいるクラスはE組だった。帰り道、廊下から中が見えない者かと思い、E組の方を回ったのだが、残念ながら移動教室での授業だったらしく、E組教室内はもぬけの殻。
俺はいつになったら絵空ちゃんに会えるんだ……。
もどかしい気持ちは募るが、仕方ない。
とりあえずは放課後だ。あの男の話を聞いて、行動範囲を広げてみよう。
NTR鬱エロゲの主人公に転生した件について ~絶望しかない無理ゲーですが、すべての展開を知り尽くした俺がメインヒロインと最高のハッピーエンドを作り上げるまで~ せせら木 @seseragi0920
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