10話 異変
それから、少しだけ保健室で世間話のようなものをして、俺たちは各々の教室に戻ることになった。
個人的には、もうその場でこのルートの進行状況、つまりは絵空ちゃんや他の攻略対象ヒロインが俺とどういう関係にあるのかについて聞きたかったのだが、それは叶わずに終了。
どういう風に聞けば、皐ちゃんを傷付けずに済むのか、そのことばかり考えていて、勝手に時間が過ぎていたのだ。仕方ない。
「じゃあ、いったん俺たちはここで別れよう。介抱してくれてありがとう。助かったよ」
「あ、ああ。でも、本当にもう大丈夫なのか?」
「大丈夫、大丈夫。……たぶん。てか、元々死んでる身で、体調不良とかも今更って感じだし……」
「? 今、なんと言った?」
「い、いや、な、何でもない! 何でも……。とにかく、本当にもう元気だから」
「……そうか。なら、私も安心だ。まさか……お誘いの方も受けてもらえるとは思ってなかったし……」
「うん。俺も……え、ええっと……い、飯野さんに色々聞きたいことがあるから! こ、ここじゃうかつにできない話だし……」
「……っ!? え……あ……そ、そうなの……か?」
「そ、そそ、そうそう! ほんと、聞きたいことが山積みでさぁ! あ、あは、あははは!」
目を見開き、わかりやすく頬を朱に染め上げる皐ちゃん。それから目を俺から背けて、チラチラと遠慮がちに見やってくる仕草が可愛すぎだった。
ついついこっちも急激に恥ずかしくなってくる。ゲームの世界だから、何度も攻略してきた世界だからって、どこかグイグイ行き過ぎだろうか? 塩梅が分からん。俺、ちゃんと話せてるか……?
なんて、不安に陥ってるところで、唐突に皐ちゃんはえいっ、と思い切ったように俺の手を握ってきた。
「あぇっ!?」
思わず変に甲高い声が漏れ出てしまう。
だってそうだ。ゲームの中でテキストとして表示されるだけじゃなく、確かな温もりを持った柔らかい手が俺を包んできたのだから。
「何でも……何でもいい。わ、私に聞きたいことがあったら、何でも言ってくれ……」
「あ…………りょ、了解でございます……」
「一度救ってもらった身だ……。大峰の頼みなら……可能な限り、私は何でもするからな……」
「……っ! ……っ!」
頭を無言のままに縦に振るしかない俺。
が、この発言で一つわかったことがある。
このルートにおける進行度だ。今の皐ちゃんの『一度救ってもらった身だ』という発言は、クラス委員集会でのゴタゴタから大峰祐志が守ったという意味だろう。
この集会イベントをこなさないと、皐ちゃんとのデートの道は開けない。
どこの誰がそこまで進めてくれていたのかはわからないが、えらく綺麗にお膳立てしてくれてるな、と思った。まるで今から恋愛イベントだけをこなせ、と誰かに言われてるみたいだ。
「そういうことだ……。じゃ、じゃあな……! 教室に戻ろう……!」
「わ、わかりましたでござりましゅ! お、お元気で!」
噛み噛みな俺を見て、皐ちゃんはクスッと笑い、小走りに去っていった。
土曜日、時計台の下だったな。時計台っていったら、商店街を抜けたところにある場所だろ。ゲームの中での知識でしかないが。
そんなことを考えつつ、俺も教室に戻ろうとした時だ。
「――!」
再びめまい。そして――
『【飯野皐と会話する】をクリアしました』のテキストが突如目の前に現れた。
「は……!? な、なんだこれ……!?」
困惑しながら目をこする。しかしながら、そのテキストは俺の眼前でしっかり漂っていた。
しかも、続けて次のテキストも表示される。
『【管理者】との会話権限を獲得しました』
「管理……者……?」
なんだそれ……?
訳が分からない。そう一人で首をひねってしまうのだった。
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