8話 いきなりルート発覚。破壊します。

「うぃっす、祐志。おはよ」


 学校へ着き、なんとか教室まで辿り着いたところで、背後から突然声を掛けられた。


 びくびくしながら歩いていた俺は、跳ねるようにして振り返る。


 そして、視線をやった先にいた奴の顔を見て、さらに驚いてしまった。


「――! た、高ちゃん……!?」


「んあ? 高ちゃん? お前、いつも俺のことそうやって呼ぶっけ?」


 高ちゃん――高越新之助だ。主人公、大峰祐志の腐れ縁ポジにあたるいい奴。


 いつも画面上で見ていた顔に怪訝そうにされて、俺は焦りに焦ってしまった。


 というのも、大峰祐志は高越のことを『高ちゃん』だなんて呼ばないのだ。


 高越に対しては、あくまでも『高越』という呼び名で通ってる。


 高ちゃんってのは、現実世界にいた時の俺――入谷将吾が使っていたただの愛称だ。そんな呼び方をゲームの中にいた高越は知るはずもなかった。


「どしたよ? なんかテンションの上がることでもあったか?」


「い、いや、な、何でもない……。別にテンションの上がるようなことがあったというわけでもないし……」


 むしろテンションが落ち込んでるというか、未だになんで自分がゲームの中にいるのかわからずショックというか……。


 と、俺が右斜め下を見つめつつ、頬を引きつらせていると、高越はポンと手を叩き、何かに気付いた様子。


 続けてニヤッと笑みを浮かべながら、耳打ちをしてきた。


「わかったぞ祐志。お前アレだろ。どうせ、榎森さんと朝からイチャついてきたんだろ。だからそんなにテンションが高いんだろ。俺のことをちゃん付けで呼ぶくらいさ」


「……はい?」


「とぼけたって無駄だぞ。このリア充がよ。一昨日だってフォーティーワンアイスの店内で食べさせあいっこしてたの見たんだからな。控えめに言って氏ねと思ったよ。爆発じゃねえぞ、氏ねだ」


「フォーティーワン……アイス……?」


「おう、そうだよ。お前さ、サッカー部のマネージャーの九季さんから放課後デートのお誘い受けて、それに嫉妬した榎森さんが強制的に約束取り付けて、急遽フォーティーワンに行ったっていう昨日の流れだよ。忘れたとは言わせねえからな。当事者なんだし」


「なるほど……」


 そういうことか。わかった。わかったぞ。


 今俺のいるルートは十五番目の隠しルートだ。


 このルートなら妹がいるのも納得。


 家庭内イベントをこなせば、文面だけで妹のことがほんの少し描写されていた。


 ついつい隠しルートということで、絵空ちゃんとの結末を急いでいたがゆえに、ちゃんと見ていなかったのだ。


 そうだ。そうだった。


 でも待て。残念ながら、俺はこのルートも攻略済み。


 現状まだ絵空ちゃんが間男の竜崎に寝取られることは無いが、この後の図書室イベントで悲劇のゴングが鳴ってしまう。


 十五番目のこのルートにおいて、それは避けられない悲劇であり、最もエロゲオタクの心を折る展開に発展していくものなのだ。よりにもよって、なぜこんなルートに飛ばされたんだ、と内心毒づくことしかできない。


 というか、そもそも転生したような形でいるが、ルート変更などができるかどうかも怪しくはあった。同時にそれも疑問として浮かんだという次第だ。

 

「ありがとう高越。俺がこれから取るべき行動が何かわかったよ。やっぱり、お前は最高の腐れ縁友達だ」


「なんかそれ、素直に喜んでいいのかわからんような言い方だな。しっかり腐れ縁って強調するように言ってきやがるし」


「喜んでいいに決まってる。まずは図書室イベント回避だ。引き出しにしまってるままの本を進んで朝から返しに行くことにするよ」


「??? お前、本当に大丈夫か? なんか今日、発言といい、行動といい、色々おかしくね?」


「おかしくなんかない! むしろ正常すぎるくらいだ! ってわけで、俺は朝のホームルームすっぽかすから! じゃあな!」


「あっ、ちょっ、おい!」


 呼び止めてくる高越と別れ、俺はダッシュで図書室へと向かった。


 朝のホームルーム前に本を返し、放課後の図書室イベントを消滅させる。さっそくだが、これでどうなるか、展開が変わるのかを試したかったのだ。

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