あの日の景色

@ryuuuuusa

あの日見た場所、どこだったんだろう…




今日は土曜日。僕は習慣となった散歩をしていた。

見たことない新鮮な、それでいて懐かしいような景色が見たくて、一日かけて散歩をする。

まあまあ田舎だけど、電車がない訳じゃないし、丸1日もあれば家からスタートでも知らない道に行けるので、中々飽きない。

今日は、上着を着てるとちょっと暑いが、脱ぐと少し寒そうだ。

穏やかな春に向かって少し不安定な気温になるこの時期、この問題は地味ーに気になる。


電車の窓から田舎を見て、少し懐かしい気持ちになりつつ、適当な駅を降りた。

今日はどんな景色に出会えるだろう、頭の中がそんな期待で埋もれていた時、

あ、ごめんなさい…

いえいえ、こちらこそ。

誰かと肩がぶつかってしまったようだ。

横を見ると、肌は真っ白で、すらっとした体型、この時期には寒そうな白いワンピース…似合っているけど、大丈夫なんだろうか。お気に入りの服なのかな。

あの、大丈夫ですか?

言われてハッとした。ジロジロ見てしまって申し訳ない…嫌な思いさせちゃったかな?

あ、僕は大丈夫です。あなたは?

私も平気です。でも、なんだか不思議ですね…

えと、なにが…ですか?

昔の友達にそっくりなんですよ、あなたの雰囲気。

いきなりそんな事を言われて、返答に困ってしまった。

そ、そうだったんですか。


しばらくの沈黙。

そろそろ先に進もうとした時、先に声を出したのは向こうだった。

今日はどちらに?

え、あぁ、どこに行くでもなく、フラフラと散歩を…

なんでそんなこと聞くんだろうと思ったら、たしかにここは、言っちゃ悪いけど寂れているし、周りにも住宅は少なそうだ。でも、不思議と懐かしい気持ちになる。ていうか、見覚えがあるような…?



なんだかんだ話し込んで仲良くなってしまった僕らは、初対面にも関わらず、一緒に散歩をしてる。傍から見ると中々のことをしてるな。

へー、この辺の雰囲気、なんだか好きだな〜。

田んぼがあり、畑があり、古風な家が点々と、空気は澄み、空は広く、青く、高い。

こんなに何も無いところなのに?

中々のことをしてる友達が、意地悪く言う。

こんなとこにいるあんたも、すごいと思うよ?

はははっ!

僕のカウンターは、サラッと受け流されてしまった。



もうすぐ日が暮れ始める頃だ。帰らないと電車が無くなっちゃう。

ごめん、今日はそろそろ帰るよ。

そっか…電車で来たって言ってたもんね。わかった、駅まで連れていくよ。


今日の思い出を胸にしまい、帰りの電車に乗った。




今日は土曜日。僕は楽しみになった散歩に出かける。

ドアを開け、電車に乗り、何度目かの君に会う。

思うところはあるけれど、それでも楽しくて、目を背けていた。

子供の頃、1度だけ来た遠い駅。子供の頃の家を過ぎ、子供の頃の遊び場を通り、子供の頃の友達と歩く。

楽しい時間はすぐに過ぎ、君を思いながら背を向けた。




金曜日。先週と同じ時間に寝て、夢の中に入る。

ありがとう。楽しかったよ。

見た事のある姿、声。鮮烈に蘇る懐かしい景色。

桜の中、君と離れた後の事。手紙で見た、君と会えなくなった春。

言わなくちゃ。

伝えなくちゃ。

桜と共に、君の面影が散ってしまう前に。




今日は土曜日。いつもより早く家を出て、走り出す。

あの日、最後の思い出の場所。

見た事のある、新鮮な景色。懐かしい場所。



ありがとう。大好きだよ。



桜は散るけれど、芽吹き始める緑の色もきっと綺麗だろう。

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