第2話

現在俺は、テーブルの前で正座している状態である。

そして俺の視線の先には、同じように正座しつつも、俯きながら時折こちらをチラチラ見ている人がいる。


「あの~・・・」


「はい!?なんでしょう!?」


「いや、驚きたいのはこっちなんだけど・・・。」


先ほど帰宅したかと思えば、その瞬間に目の前に現れた少女。

なんとびっくり、彼女は今しがた、俺の身体をすり抜けるという、マジシャンも驚きの高等テクニックを披露したのである。

その種明かしをしようと、こうして向かい合っている訳なのだが。


「君はさっき、私が見えるのか?と言ったね?」


「はい。」


「それってその・・・君はもしかして、いわゆる幽霊・・・なの?」


「・・・はい。」


消え入りそうな声でそう答えた彼女は、ようやく顔を上げてくれた。

歳は20代前半といったところだろうか。

綺麗な長い髪が目を引く、はっきり言って美少女だ。


「君、名前は?」


「湊川涼香(みながわすずか)です・・・。」


なんとも涼し気な名前だ。


「俺は速水陽介(はやみようすけ)だ。ええと、よろしく?」


「よ、よろしくお願いします。」


湊川さん?は、こちらを見ながら会釈した。

やはりどこかぎこちない。


「それで、君はどうしてこの部屋に?」


「・・・」


何か話しにくい理由があるのだろうか。

なかなか口を開いてくれない。


「私、すっごいドジで。」


ぽつりぽつりと、湊川さんは語り始めた。


「何もところでころんじゃうくらい、ホントにマンガのキャラクターみたいなドジだったんです。」


「あの日・・・私が死んだ日も、密かに気になってた男性をたまたま見かけて、その人を追いかけてたんです。」


表情が次第に曇り始めた。


「そしたら、その人には彼女がいて、デートに行く途中だったみたいです。私、ほとんど話したこともなかったのに、勝手にショック受けちゃって。」


「とぼとぼ歩いてたら、車にはねられちゃって。で、未練だけが残っちゃって、気づいたら幽霊になってました。ドジもここまでくると、もはや病気ですよね。あはは・・・。」


苦笑いを浮かべてはいるが、目の奥が笑っていない。


「で、自分が死んじゃったことにまたショックを受けて、フラフラ~っとしてたらいつの間にかこの部屋に・・・。なんだかすごく落ち着いたんですよね。そしたらそこにあなたが帰って来たんです。」


ひとしきり語った後、湊川さんはまた黙りこくってしまった。

なるほど・・・。


「俺も・・・ちょっとはわかるよ、その気持ち。」


「え?」

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タイトル未定 @mrsy

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