第14話

 ピンポーン


 ドアのチャイムが鳴った。

「やべっ、先輩かも」

「流石に2時間もダメでしょ……早く行かなきゃ。私も小雨になったし行くわ」

 時雨くんは抱きついたままだ。ダメだよ、行かなきゃ。


「も少しこのまま。ほら、雨の音聞いて」

 さっきよりだいぶ小雨になってきた。でもまだ聞こえる。


「どう? 雨の音、いいでしょ。僕は昔から雨音が好きなんだ。名前に雨がつくのもあるけどさ……」

「私は嫌いだった」

「でも今はどう? いい音でしょ」


 またドアのチャイムが鳴る。

「おい、廿原! なにやってんだ!」

 ドンドンと音がする。私はその音と声に反応して震える。


 時雨くんは強く抱きしめてくれた。そして少し離れて

「待ってて、話してくるから」

 と玄関まで行ってしまった。私がいけないのよ。引き止めて……部屋まで上がって……。


 わたしは耳をすませて玄関から聞こえる声を聞いた。

「すいません、先輩。頭痛くって」

「勝手に休むなよ。連絡しろ……て、そのヒール」

 あっ、私の……。


「ははん、女連れ込んでるのか。スーツケースあるってことは……お取込み中か?」

 しまった……。

「そ、そうです」

 時雨くん……! 


「はぁ、それはそれは。一時間後には戻ってこいよな。仮病じゃなさそうだから」

「はい……すいません」


 ドアが閉まった後に私は玄関に行く。

「ごめん、時雨くん」

「さくらさん、謝ることないよ。じゃあ今から駅まで送って行くから」


 寮を出る頃には雨は上がっていた。さらにはうっすらと虹が。

「綺麗……」


「だね。雨も悪くないでしょ。あ……ほら、スーツケース持ってくよ」

 私はうん、と頷いてスーツケースを渡した。




 

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