第15話

 そして駅まで送ってくれた。


「なんかさ、あったばかりで僕の一目惚れで……なんていうかその……」

「うん……」

「でも今回限りにはしたくない」

 すごく真剣な眼差しで私を見る時雨くん。私も……と頷いた。


 互いに連絡先を教えあった。

「また落ち着いたら連絡する」

「神奈川だっけ……家」

「うん、でも仕事でこっちに来れる……ううん、来てみせるわ」

「やった」

「ふふふ」

「可愛い、ふふふって」


 あ、そうだ……あのことを……と思ったら時雨くんは両手で私の手を包んでくれた。


「雨もいいよね。また雨が降っても僕だけでなくて……おかみさんやスタッフさんや……一緒に来てくれた山上さん……ちょっとあの人は少しデリカシーないけどさ心配してたから。みんなに優しくしてもらったことを思い出してほしいな」

 私は頷く。事務長の名前もしっかり覚えててすごいわ。流石有名料亭の板前さん。

「……本当は仕事で来たの、愛知に」

「そうだったんだ……」


 そう言ってまた見つめあってキス。笑い合う。

 ……またキス。舌を入れてきたから私は離れた。

「ごめん」

「……もうこれ以上しちゃうと帰りたくなくなる」

「そうだね……って帰したくないけど本当は……冗談はさておき、トランクから荷物出すね」

 私は車から降りてキャリーケースを出してもらった。


「私さ、その……離婚したけど子供いるのよ」

「ああ、確かになんか話してた。まだ小さくて預けてもらってるとか?」

「……ううん、高校生。女子高校生」

「えっ」

 やっぱ驚くよなぁ。


「すごいなぁ、さくらさん……ますます応援したくなる」

「ありがとう、私もあなたの仕事応援してる」


 時雨くんはずっと手を振ってくれていた。笑顔で。


 持っている傘は雨でまだ濡れているけどそのうち乾くだろう。


 電車の中でふとよぎる。久しぶりの生身の自分より若い男の身体と感覚を。


 しばらくこれネタにして稼げそうだわ。……なんてね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る