第12話

 私は電車を遅らせることにした。




「……料亭はいいの?」

「さくらさんこそ……もう帰りなんでしょ」


 荒々しくつづはらさんに抱かれてもう二時間経つ。料亭のすぐ横の住み込みの寮の彼の部屋。再会して服を受け取って服を返して最後におみやけを買おうとしたら部屋に誘われて気づいたらキスをしてこうなっていた。


「もう帰るなんて嫌だよ……もっとさくらさんを知りたい」


 こうなるならもっと早く会えばよかったのかな。


 ……また雨が強くなった。憂鬱になる。


「雨、嫌いなんだよね?」

「……うん。そういえばしぐれ、って時の雨でしぐれ、でいいのよね?」

「うん、そうだよ。変わってるでしょ。弟の名前にも雨がついてる」

 そうなんだ。名前に雨がつくなんて。なんか声優さんにいた気がするけど。


「じゃあ時雨……くんは雨は好き?」

「うーん……」

 困らせてしまったかな。


「……まぁ時と場合によるよね。頭は痛くなる時とない時があるから」

「私は嫌よ。嫌い」

「すこぶる嫌いそうだな、恨みつらみありそう」

「そうね、嫌なこと思い出すから」

 時雨くんに抱かれているのに前の夫とのことを思い出すのは嫌だ。だからぎゅっと抱きしめる。

「……それはおいおい教えて。言いたい時にね」

 とキスをしてくれた。

 でも私は体を離す。

「どうしたの……」

 彼はまたくっついてくる。

「わたし、あなたよりかなり上よ」

「そうなの?」

「……40過ぎてるから」

 そう言っても時雨くんの顔は変わらなかった。


「いや、何を言う。僕32だし。気にしないし。元カノも別れたけど付き合ってたら45超えてるし」

 さらっと言うのね……まさか、年上好き?


「年齢はただの目安だし。自分より多く経験積んでる人生の先輩。年が上だからダメとかないし。同い年でも年下でも僕は関係ないって思う」

 な、なんてポジティブ。


「だとしたらさくらさんにとって若い、ってなる僕はどう見える? ガキってかんじ?」

「ガキって……」

「ごめん、言葉悪かった」

「ううん。年下とは思えない、ていうか……なんだろう、そのー」

「でしょ」

 でしょと言われても。たしかに彼が私より年下だからどうした、だよね。


 私はもう一度キスして離れた。

「あ、シャワーはあるから……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る