第6話:そもそも「生脚を見てエロい気持ちになる」とは、どういうことなのか?


今日もオレは軽四貨物のサンバーを駆り、現場から現場へと慌ただしく移動する。消防設備点検業者は忙しい。慢性的、構造的な人手不足の中、良く言えば引っ張りだこに、悪く言えば殺人的な激務に、振り回され続ける毎日だ。


真夏の地方都市の交差点での信号待ち、夏休みに街へ出掛けるショートパンツを履いた若い娘の、健康的な白い脚がまぶしい。オレはその、脚の表面に薄く浮かぶ筋肉と、汗ばむ白い肌と、その脚の付け根、つまり腰回りを「凝視」する。・・・ああ、それでいい、もう、変態おやじ、ということで、一向に構わない。


気が付くと、短時間の間に、ものすごい集中力でそのショーパン・ノースリーブの十代の女の子の、そのうら若き肢体を観察している自分に気づく。脚の長さの比率、脚への脂肪や筋肉の付き方、腰との接続部の構造、お尻への脂肪や筋肉の付き方、ウェストのサイズ、・・・


だけじゃない。身のこなしの軽さや、頭や眼の動き、そして全体的の骨格、そして何より、―――


綺麗で可愛い容貌をしているかどうか?


を結構遠くから、ジロジロ見ないように留意しつつも、めつすがめつ、ごくごく短時間の間に、眼光紙背を徹す、の気概で、すべてを見抜き、すべてを見透すべく、観察している。何ひとつ見落とすまいと。・・・今、こうして書いてて、なんかすごく怖くなった。男って、・・・怖いねやっぱり。って、ひょっとして、オレだけか?


こんな時、趣味で小説を書いている関係上、どうしてもオレは、考えざるを得ない。曰く、―――


オレは、いったい「何を」こんなに一所懸命見ているのだろう? 今、オレの中で、いったい「何が」起こっているのだろう? ―――と。


オンナの生脚を見ている。オンナのケツを見てエロい気持ちになっている。じゃなくて、オレはいったい何の目的で、何をそんなに一所懸命確認しようとしているのか? ということだ。そもそも「生脚を見てエロい気持ちになる」とは、どういうことなのか?


そうやってエロい物を見ている自分の中に潜っていくと、ああ、と気付くことがある。


まず1つ目。

このオンナとヤリたい(※すみませんっ)、の手前に「この娘みたいになりたい」いや、いっそ、「この娘になってしまいたい」という変身願望がある。


2つ目。

変身するのは本当に「この娘」でいいのか? この娘に変身すると自分はどう変わるのか? を確認している。身体からだは健康か? 運動は得意か? 頭脳あたまいか? 体格はいか? ・・・でも、おっさんである自分が、その綺麗な女の子に変身なんて、出来る筈もないのに?


3つ目。

ここで考えを飛躍させると、・・・そうだ、オレは、次世代に引き継ぐべき「スペック」を確認しているのだ、・・・ということに思い至る。その娘の優れた特徴は、その遺伝情報は、生殖行為を経て、次世代に、自分の子供に、まんま引き継がれるではないか!!!


4つ目。

深層心理においては、自分の子供と、自分自身とは、実は区別されていない。「来るべき次世代を担う子供達のために」とか「大切で可愛い自分の子供のために」とか、そういう「他愛」的視点では一切考えていない。あたかも自分が「この娘みたいに綺麗になれる」「この娘みたいな細いウェストと長い手足を手に入れることができる」と思って、矯めつ眇めつ飽きもせず、ひたすらに微に入り、細を穿つの集中力で凝視・確認しているのだ。そこにはエゴしか無い。100パーセント「我欲」である。他に資することを望む心理は皆無だ。「子供のため」なんかじゃない。


そう、人は深層心理において、今とは違う姿かたちに変身できる、と思っている。もちろん頭では、つまり表層意識に於いては、自分はおっさんで、このまま老いて死ぬだけだ、と理解している。自分は、自分以外の何者にもなり得ない、と知っている。だが、魂の奥底ではそうは割り切れていないのだ。でなければ、あれほどの集中力で女体を凝視する自分の、あの真剣な心の在り様が、すっきりと説明されない、ではないか? だって、持てる知識と観察力のすべてを、本当にすべてを総動員して、全力で「凝視」しているのだ。ああ、なんか、やっぱり恥ずかしくなってきた、・・・


**


さて、本当はもう少し話を前に進めたいのだが、長くなってしまうので今回はここで話を切りたい。次項では、人のルックス、「美しさ」というものについて、それが何なのか触れたい。




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