最終話‐私の推しのその後の話

 あの日、近藤くんと本屋で遭遇した日から一週間が経った。これは後から聞いた話だが、近藤くんがマチナカ食べ歩きフェアはどうかと提案したところ、佐川くんの方が想像以上に食いついたらしい。

 昨日携帯に届いたメッセージには、そんなことが書かれていた。


 —ピロン。

 携帯の通知音で、目が覚める。時計を見れば、もう22時前。夕食を食べて、漫画を読んでいるうちに寝落ちしてしまったのだと、悟った。携帯の通知を確認すれば、送信主は近藤くんだった。


「デート、大成功だった!」


 そんなメッセージと一緒に送られてきたのは、二人でピースしている写真。写真から見るに、撮影者は近藤くんで、口を開いている彼に、たこ焼きを差し出している佐川くん。二人ともすごく笑顔で、あぁ、楽しかったんだろうななんて察する。


「よかったね、美味しかった?」


 メッセージを送信すれば、数分と経たないうちにメッセージが返ってくる。


「美味しかった! また食べ歩きとかしようなって話になったし、デートに対するためらいもお互い軽減されたからもっと行こうぜ!って言われた‼‼」


 メッセージに大量発生していたビックリマークの多さから、彼がどんなに高いテンションでこの文章を打ち込んでいるのかが、容易にわかる。本当に嬉しかったんだろうな、なんて思うのは何度目だろうか。


 推しが幸せそうなら、それでいい。そっと息を吐いた。

これからも、私と近藤くんの相手は相談する側とされる側という関係は変わらないだろう。推しの役に立てるのなら、それでもいいと思っていた。

 

 推しがどんな趣味を持っていようと、推しがどんな恋愛をしようと、推している側には関係ないのだ。すべて受け入れてあげるのが、礼儀なのではないかと私は思う。まぁ、そう思わない人もたくさんいるだろうけれど。


 トークルームを閉じて、時計を確認する。明日は、学校がある。

寝坊しないように気を付けよう、そう思いながら明日の支度を始めた。

近藤くん、二人きりだったら詳しい話聞かせてくれないかな、腐女子としてはそういうBLエピソードとても興味があるんだけど……なんて思っていた。


 机の上に出しっぱなしだった『彼女じゃなくて彼氏が欲しい』の最新刊が目に入る。なんとなく、手に取って付けたままだった帯の説明文を読んだ。


「クラスの女子にモテモテな彼は、実はバイセクシャルで……!?」


 そう銘打たれたキャッチコピー。どこかで聞いたことあるような……と何か胸に引っかかる。


「待って、近藤くんがこの漫画好きなのって……」


 キャッチコピーに書かれた漫画の主人公の特徴と、佐川くんの特徴が、一致する。そりゃあ、好きだよな、なんて笑いながら丁寧に帯を外した。


 面白いな、近藤くん。そう思いながら少し早いけどベッドに寝転ぶ。

明日、話せるかな……なんて思っていれば自然と落ちてくる瞼。

私と推しの奇妙な関係は、まだ始まったばかりだった。

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三次元の推しが腐男子だったし、彼氏がいた @Saya_210

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