Ⅲ
「キラシャンドラ、これを見て」
ユーパンドラが共有化を促したデータを確認したキラシャンドラは、ユーパンドラの意図を測りかねて戸惑った。
「ただの音声データとしか認識できないけど……」
「うん。あの星のコミュニケーションには音声や文字が使用されるケースが多いことはわかってる。でもこれはコミュニケーションが目的で作られたものじゃない。これも見て」
次にユーパンドラが送ったのは、先ほどの音声を集団で共有化している知的生命体のバイタルデータだった。
「反応……いえ、感応している?」
「そう」ユーパンドラが興奮した様子で答えた。「この音声情報を共有化している個体たちは、明らかにバイタルが通常の状態とは変化している。まだはっきりとはいえないけど、その状態は、彼らの集団殺戮のときとは真逆の状態みたいなの」
「どういうこと?」
「わからない。でも、まだあるの」
ユーパンドラはさらに図形のデータを、キラシャンドラに示した。
「この図形――というか形象も、彼らにとっては何か意味があるみたい。特定の場所に設置されていて、それを複数の個体が視覚情報として共有化している。そのときのバイタルデータがこれ」
「さっきの音声データのときの反応と似ている」
「そうなの。あとは、これも」
今度は大量の文字データだった。
「ざっと意味は認識できたけど」スキャンと解読を終えたキラシャンドラは不可解なニュアンスを込めて答えた。「これはいったい何なのかしら。ここに書かれていることは事実じゃないわよね」
「そう」なぜかユーパンドラは嬉しそうだ。
「事実じゃない出来事が書かれてある……。これってどういう意味があるの?」
「私にもまだはっきりとはわからない。でも、この文字情報を取得したときの個体のバイタルデータもさっきのふたつの場合とほぼ同じ傾向を示しているの」
「つまり、この三つは同じ事象を意味しているということ?」
「ううん、そうじゃない。それぞれに関連性はないと思う。ただ、それぞれが彼らにもたらす影響が似ているだけ。そして、その影響はとても重要なものだと私は思う」
キラシャンドラは考え込んだ。
「それが――あの星の知的生命体の謎を解くカギだと、あなたは思っているのね」
「うん」ユーパンドラが答えた。「どうして彼らはあんな異常な環境で正気を保っていられるのか。その答えが、ここに――この音声や形象や文字情報の中にある、そんな気がするの」
これまでもそうだった。ずっとずっと昔、もう気が遠くなるほど昔、まだふたりがオリジナルだったころ、あの頃からユーパンドラはいつも突飛な考えでキラシャンドラを驚かせ、突飛な行動でキラシャンドラを振り回した。そのたびに、キラシャンドラはいったものだ。ほんと、無茶なんだから。
でも、キラシャンドラは決してそれが嫌ではなかった。
ユーパンドラの持つ直観力を信じていたし、行動力がうらやましかった。
そして何より、ユーパンドラは自分に足りていないものを自覚していて、それをキラシャンドラが持っていることをよく知っていた。
だから、ユーパンドラが遠征隊に志願しようと誘ったとき、キラシャンドラも二つ返事で同意したのだ。
今、キラシャンドラは、次にユーパンドラが何というかがわかっていた。
「キラシャンドラ、私、あの星に降りる」
やっぱり。
「それは本来、やってはいけないことなのよ」
「わかってる」
「どうするの。複製する?」
「それは――したくない」
「まあ、緊急時以外に複製を走らせることも禁じられているんだけどね」
「そういうことじゃなくて」ユーパンドラはいいにくそうに続けた。「キラシャンドラとの記憶保持者をこれ以上増やしたくない」
じゃあ、ひとり残される私はどうなるの――そういいたくなる気持ちを押さえて、キラシャンドラはいった。
「念のため、バックアップは取っておくわよ」
「わかった。ごめん」
「ほんと、無茶なんだから」
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