第4話 遊興に逃げる ー地下の遊び場ー
他の者達の帰宅に紛れて職場をあとにし、いつもとは違う駅で降り、業務時間が過ぎ、人がいなくなったオフィス街に向かう。
建ち並ぶビルとビルの隙間をぬって入り、本来はいるはずのない守衛がいる裏口で、スーツの裏から一枚のカードを取り出し、いかつい守衛に見せれば、電子音の後に扉のロックが解除され、お目当ての場所に進むことができる。
最低限の証明が灯る無機質な廊下の奥、緑色に光る非常口の標識を目印に、地下へと向かう階段を降りる。それなりの段数を降りて行きついた先には、表情をなくした黒メガネを付けた黒スーツの音が二人、無言で立ち構えている。
鉄の扉に付けられたカード読み取り機にカードを差し込み、私だけに割り当てられた暗証番号を打ち込み、網膜認証を受ければ、閉ざされた扉が開く。
扉の奥にも通路は続くが、進んでいけばそれなりに人がいるであろうと思わせる、騒々しい音や声が聞こえ始める。
豪勢さを全面に出し、煌びやかな光彩を放ち、華美な装飾で彩られた室内で目立つのは仕立ての良いスーツを来た大人の男達。私のようにくたびれたスーツを着ている者は他にはいない。いつ来ても若干気後れをしてしまう。
チラチラとこちらに刺さる視線を躱すようにお目当ての部屋がある位置までそそくさと移動する。
ここは、会員制の大人の男が集まる非公式の遊び場。今日の私の目的は「デジタルシューティングゲーム」にしている。
残念なことに、この会場ではあまり人気がない。お金を持っている方々は、賭博系や血生臭い格闘系の観戦でスリルを楽しむのが、ここでの常識だ。
しかし、小市民の私には縁遠い感覚で楽しむことができない。当初は、連絡先から紹介をしてもらったものの通うことはないだろうと思っていた。
だが、人気のないエリアでこのゲームに出会ったことは天命と思えた。そもそも、日本においてメジャーとは言えないが、デジタルシューティング自体は公式競技として存在している。スポーツとしてであり、遊戯とは違うと思う。
ここでは、競技のように一つの的を狙いスコアを競うものではなく、又、ガンシューティングゲームのような画面の敵キャラに向い照準を合わせるものでもない。
部屋の中を自由に動き、ランダムで現れ、動き回るホログラムの的を相手にするシステムだ。しかも、攻撃までしてくる。
おかしな話だが、非公式化されたことによりこの社交場へと持ち込まれ、一区画に秘かに設えられ、物好きなオーナーによりここで研究開発が進み、最新鋭のゲーム化に至っている。
部屋に入り、暇そうにしていた優男から朗らかに挨拶を交わされ、いつものようにゲーム用の装備を身に着けてゲームルームへと向かう。無機質な白く広い部屋が、瞬時にして暗くなり「Ready」の声とともにゲームの世界へと誘われる。
部屋の中に現れる敵へ照準を合わせて撃つ。相手から攻撃を受ける前に撃つ。足取り立ち位置に気をつかい、壁際に追いやられないようにしながら、撃つ。
息も荒く、汗が噴き出ながらも「Fantastic!」の声でゲームは終わる。
部屋から出ると優男が拍手で迎えてくれた。
「ずいぶんと上達しました。まるでプロのようだ」
「いえ、ゲームですから」
と、笑いながら答えて装備を返し部屋から出る。いつの間にか、部屋の前に人が集まっていた。人ゴミの中をかいくぐり、社交場をあとにする。
疑似的な非日常的な行為から解放され、現実に戻る。ストレスがたまったら、又、ここで撃ちたいものだ。これで、明日からもまた、頑張れるというものだ。
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