第9話 開拓村
母が食料などの旅道具を持ち出してくれたおかげで、前回の旅のようにお腹を空かせることなく旅は進んでいた。魔物との戦闘も索敵魔法のおかげで避けることができている。ときおり道を逸れることに母は疑問を持っていたが。だがそのおかげで奴隷商との対面も避けることができ、三日かけて開拓村までたどり着くことができた。
開拓村には宿屋などなく、家を持っている人もまばらであった。住民には必死に働いている者もいれば、その作業を死んだような目で見つめている者もいる。作業の監督をしている人はおらず皆てんでばらばらに作業をしていた。
そんな人たちを観察していると、多少身なりの良い男から声をかけられる。
「あなた方はこの開拓村の住民希望の方ですか?」
アルトはうさんくさそうに男を観察していたが母が質問に答えてしまう。
「はい。そのつもりで来たのですが。ここは住民を受け入れているのでしょうか?」
「受け入れていますよ。では、こちらにサインか血判をお願いします」
その言葉にアルトはさらにうさん臭さを感じた。母は指に切り傷をつけようとしているところだったがアルトが止め、書類を確認する。
その書類は、この開拓村に住むことを認める代わりに開拓した畑や建てた家の所有権を男に移譲することを認める内容の書類であった。アルトは気づいていないことではあるが魔力で契約を破棄できないようにまでしていた。
「この書類にサインしなければここの村には滞在できないのでしょうか?」
アルトが尋ねると男は明らかに顔色が変化していた。そして急に泡を吹いて倒れた。その光景を見て必死に働いていた者たちは怒り出し、死んだようにそれを見つめていた者たちは泣いて喜び出した。その全く異なる光景にお互い冷静になりだし、アルトたちを中心にして会話が始まる。まずは働いていた者たちが話し出す。
「私たちは先程の男からここに住むことを承認された。あいつはここの村長になることを上の者たちから認められていると言っていた。それで俺たちは何とか生活を送れるようにするために家や畑を作っていたんだ」
その話を聞いて次は傍観していた者たちが話し出す。
「俺たちは先程の男からここに住むことを提案され、ここに来たはいいが先程の書類にサインすることを強いられて何かおかしいと感じて、断った集団だ。断った途端に態度が急変してここに住むことを拒否してきたからどうしたものかと悩んでいたんだ」
そこでアルトが会話に混ざる。
「先ほどの書類はここに住むことを認める代わりに建てた家、切り開いた土地などはすべて先程の男の所有物になるという契約書でした。おそらく字を読めない者を労働力にするための契約書でしょう」
そう言うと、この開拓村の人々はサインをした者は絶望を、サインをしなかった者は幸運を感じていた。そして、サインをしたものの中に先程の男を殺そうとするものが現れた。だが、その行動は途中で止まった。誰かが止めたのではなく止まったのだ。その男は既に死んでいたのだった。
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