第8話 親
鑑定の儀も終わりアルトは家に帰ろうとすると、周りの人間が指を指して笑っている。アルトはそれを無視して家に帰った。家に着くと両親が玄関で待ち構えていた。
「鑑定の儀の結果はどうだった?」
父が代表して確認する。アルトは無表情でこう返した。
「才能はなしだってさ」
その言葉に家族全員は一時呆然と立ち尽くしたが、父がふと我に返り怒鳴りだす。
「冗談を言うんじゃない。才能がないなど聞いたことがないぞ」
「ならシャイドに聞いて見なよ。それでも信じられないなら鑑定の儀を見ていた人や神官に聞いてみたら?」
そのアルトの態度に話は本当だったと判断する両親だった。だが兄のライナスだけは興奮した様子で怒鳴りだす。
「アルト。本当のことを言え。才能なしなんて冗談だよな?俺結婚が破談になるなんて嫌だぞ」
どうやらライナスはアルトの将来よりも自分が町一番の農家になることができなくなることが心配らしい。所詮、家族と言ってもこんなもんかとアルトは落胆した。両親もライナスをしかることもせずにただ今後のことを考えているようだった。
「アルト、今日はもう部屋にいなさい。勝手に外に出ることは許さん」
父からそう言われ、アルトは黙って家に入っていく。その後ろ姿を見て母は泣いていたがアルトにはかける言葉が見つからなかった。
アルトが部屋で眠っている間に家族会議が始まった。ライナスは邪魔になったアルトを追い出すことしか喋らないため実際は両親の話し合いだ。
結果、家族は分裂し、父親はライナスと畑仕事を母親はアルトをつれて町を出ることにした。
翌日、そのことがアルトに話されたのだが、アルトは母親の心配をした。
「母さん。俺は一人で町を出るから、家に帰りなよ」
「もう父さんとは喧嘩別れしたのよ。いまさら家になんて帰れないわ」
母の意思は固いらしく大きな荷物を持って門の方へ向かう。せめてもと思い荷物はアルトが持つことにした。
「で。これからどうする予定なの?」
アルトが質問すると、母は舌を少しだし。
「実は何も決めてないの」
と言う。
そんな話をしている最中にも周りの人々から嘲笑の対象とされていた。二人はまったく気にしていなかったが。
「とりあえず街とは反対の方向へ向かおうと思っているけどそれでいい?」
アルトがそう言うと、母は疑問を浮かべているようだった。
「構わないけれど、街に向かった方がいろいろと便利よ。アルトは働くのが難しいでしょうけど私が働けばいいのだし」
母はそんなことを言うが農業の才能を持っている母が働けるのは農場しかない。それでは土地を持たない自分たちは搾取され続けるのは目に見えていた。
「街とは反対に進めば村があるでしょ。そこはまだ開拓途中だから自分で開墾すればその土地の所有権は自分のものになったはずだよ。そっちの方が最初はきついだろうけど、あとから楽になるからね」
アルトが今後のことについてしっかり考えていることに安心した母であったが、それは奴隷として捕まった時に聞いた話であり、正直取りたくはない選択の一つであった。
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