第6話 マッドサイエンティスト

奴隷に計算を教えることになってから一月の時間が過ぎた。一緒に来た奴隷たちは皆売れてしまい新しく追加された奴隷に計算を教えている最中にブサイロンがやってきた。


「アルトよ。作業の命令を解除する」


そう言われアルトは計算の授業を止めた。作業を止めたことを確認したブサイロンはアルトに話しかける。


「アルトよ。お前の買い手が付いた。計算を教えるのに非常に役に立っていたが大金を積まれたのでな。明日の朝、引き渡しがあるため今日はもう休み、明日は身ぎれいにして部屋で待機しておくように」


そのように言われ、アルトは驚いた。いくら読み書き計算ができようとも才能のない奴隷を引き取るような金持ちがいるとは考えにくかったからだ。


それでも命令には逆らうことはできず、その日は休息をとり次の日の朝には水浴びをして部屋で待機していた。するとブサイロンが白衣を着た女性を連れて現れた。


「アルトよ。こちらはミリング様だ。お前を買っていただくお客様だ。挨拶をしなさい」


「アルトです。どうぞよろしくお願いします」

そう言って礼をしたアルトへミリングは質問を投げかける。


「鑑定の儀で才能が現れなかったというのは本当か?」


まだ所有権が移動していないため命令とは判断されずに答えに迷っていたところへブサイロンより「話せ」との命令が下る。


「本当です。鑑定の儀の結果はなし。才能なしの無能と言われました」


その言葉にミリングは満足そうな笑みを浮かべブサイロンへ話しかける。


「予定通り金貨20枚でこの奴隷を買うぞ。既に金貨は準備してある。このまま連れて行っても構わんな?」


その言葉にブサイロンは無言で頷き、了承の意を返す。


そして、アルトは奴隷商を後にして立派な洋館へと移動させられた。一体何をさせられるのか心配だったため質問したかったアルトだが、事前に質問と他言を禁止する命令を下されていたため何も話すことができなかった。


そして洋館へと到着して部屋に入った途端、動くことを禁じられ、右手の人差し指にナイフで切り込みを入れられた。急に来た痛みに驚いたアルトであったが動くことはできず、痛みを我慢することしかできなかった。ミリングはその間、流れ出る血液を採取している。


十分な血液を採取し終えると拘束の命令は解除され、ミリングの魔法により傷口は塞がれた。この時、初めて魔法を見たアルトは魔法について質問したい欲求にかられたが命令で質問を禁じられていたためできなかった。ここでミリングから命令が下る。


「私はこれから血液の検査に入る。アルトはここで私の邪魔をせずに部屋の掃除でもしているように」


アルトは好機だと思った。研究の資料が散らばったこの部屋の中に魔法の資料でもあれば先程の魔法の効果が分かるかもしれないと。アルトの頭の中は既に知識を満たしたいという欲求に支配されていた。

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